万華鏡は月を巻き戻す

水族館の帰り道。

「羽瑠、これあげる。」

「ありがとう。」

手のひらに乗ったのは、さっき二人で見ていたイルカのストラップ。
青いアクリルが夕陽を受けて、きらっと光る。

「あとこれも。」

「……笛。まさか買ってきたんだ。」

「うん。吹いてみてよ。」

「ふぃーっ。」

かすれたような、頼りない音が鳴った。

「……あんまりちゃんと鳴らないね。
もう少し息を真っ直ぐ出すのかな?」

「うーん、ちょっと練習しとく。」

「うん!呼んだら、俺いつでも羽瑠のところ行くよ!」

「そんなばかな。」

思わずふっと笑ってしまう。

「だからいつでもちゃんと持っててね」

朔が笑う。
その笑顔が、さっき透さんを見ていたときの張りつめた表情を
すっかり溶かしてしまう。

(あ……よかった。いつもの朔だ。)

胸の奥が、そっと温かくなる。



「羽瑠。」

「なに?」

「俺ね、こうやって羽瑠とデートするの……ずっと夢だったんだ。」

「そんな大袈裟な。
まだ会って一カ月もたってないじゃん。」

「それでもだよ。
本当に……夢だったんだ。」

朔は笑っているのに、どこか胸の奥に触れてくるような声だった。
“今この瞬間を大事にしてる”というのか…。
その言い方が、少しだけ切なくて、少しだけ怖い。

「……変なの。」

そう言いながらも、胸の奥がじんわり熱くなる。
朔の言葉は軽くない。
一カ月じゃなくて、もっと長い時間を見てきた人の言葉みたいだった。