万華鏡は月を巻き戻す

「本題です。
羽瑠に近づかないでください。」

黒木院長の目が細くなる。

「未来のあなたは、羽瑠を殺して警察に捕まる。
それだけじゃない。
ネットで晒されて、大事な人たちもあなたから離れていく。」

半分は嘘だ。
俺のいた未来では、羽瑠は殺され、
犯人は見つからなかった。

でも――
院長を止めるためには、これくらい言わなきゃいけなかった。

「そうか…。」

院長の声がわずかに揺れる。

「もし、それでもあなたがやるというのであれば…
こちらも手は打ってあります。」

俺はバッグから書類を取り出した。

「これを、公表します。」

政治家の治療記録、
警察内部の不正の痕跡、
黒木病院が握っている“秘密”。

未来で必死に調べてきたものだ。

これを晒されたら、
黒木病院は一瞬で信用を失う。

院長の表情が固まる。

「どうしますか?
約束できますか?」

長い沈黙のあと、
院長は深く息を吐いた。

「……ふーっ。わかった。
約束する。」

その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥が少しだけ軽くなった。

羽瑠を守るためなら、
どれだけ嫌われてもいい。
どれだけ汚れ役になってもいい。

俺が未来から来た意味は、
きっとそのためなんだ。