万華鏡は月を巻き戻す

「わっ。」

履き慣れない下駄の歯が、石畳の小さな突起にひっかかった。
身体が前に傾き、視界がぐらりと揺れる。

「羽瑠!」

強い腕がすぐに腰を支え、ぐっと引き寄せられた。
胸の前でふわりと浴衣の布が触れ合い、夏祭りのざわめきが一瞬遠のく。

「あ、ありがとう。」

顔を上げると、朔の眉が心配そうに寄っていた。
屋台の灯りが彼の横顔を照らし、影がゆらりと揺れる。

「ゆっくりいこう。」

低くて落ち着いた声。
その言い方が優しくて、胸の奥がじんわり温かくなる。

「うん。
あ! 朔、りんご飴食べよう。好きだって言ってたでしょ?」

「うん、食べる!」

朔の顔がぱっと明るくなる。
その無邪気さに、羽瑠もつられて笑った。

2人で並んで屋台に向かい、赤く光るりんご飴を受け取る。
飴の表面に祭りの灯りが映り込み、宝石みたいにきらきらしていた。

「美味しい。」

朔がかじると、ぱりん、と小気味いい音がした。
その横顔を、そっと盗み見る。

茶色の髪が夜風に揺れ、屋台の提灯の光が頬に柔らかく落ちる。
口元についた飴の欠片を舌でぬぐう仕草まで、なんだか妙にかっこよく見えた。

胸がきゅっとなる。

――きっと、私はりんご飴を見たら、ずっと朔のことを思い出すんだろうな。

そんな予感が、甘い飴の香りと一緒に胸の奥にそっと溶けていった。