万華鏡は月を巻き戻す


「私は──」

「羽瑠!」

低い声が割り込んだ。
朔が戻ってきて、私の前にすっと立つ。
さっきまでの明るさが消えて、目が鋭い。

「彼氏さん?」

「えっと……友達です。」

「彼氏候補です。
この人は?」

朔の声は静かだけど、明らかに警戒していた。
こんな朔を見るのは初めてで、胸がざわつく。

「あ、お母さんの弟だよ。」

「初めまして。湯浅 透です。」

透さんは優しく微笑む。
けれど朔は、その笑顔をじっと見つめたまま、
まるで“何か”を探るように目を細めていた。

「あ、パパ!!」

「ほらゆり、走らないの!」

透さんの奥さんと娘のゆりちゃんが駆け寄ってくる。
家族の空気がふわっと広がって、場が明るくなる。

「あら、羽瑠ちゃん久しぶりね。」

「もしかして羽瑠ちゃんの王子様?」

「えっ?!」

「そうだよ。羽瑠の王子様。」

朔はふっと、いつもの柔らかい笑顔に戻った。
さっきの鋭さが嘘みたいに。

軽く談笑して三人と別れたあとも、
朔はしばらく透さんの背中をじっと見つめていた。

その横顔は、どこか張りつめていて──
私は思わず息を飲んだ。

(……どうしたんだろう。)