「少し化粧もしていい?」
「はい、お願いします。」
そう言って、下地とファンデを塗ってくれる。
「なんか緊張してる?」
真実さんが簪をさしながら口を開く。
「少し不安で…。」
「不安?」
「はい。
この先ずっと一緒にはいられないのかなって。」
ぽつりとこぼれた言葉に、
真実さんは一瞬だけ目を細めた。
「あら…まあ、そうね。
目少しつぶって。」
「はい。」
アイシャドウを塗ってくれる。
「私もね、高校生のときに付き合ってた人がいたの。
すごく好きで、毎日一緒にいたのに…
大学に進学したら、自然と連絡が減って、
気づいたら心が離れちゃってた。」
「……。」
「あんなに好きだったのにね。
でもね、その時の思い出は今でもふっと思い出すの。」
真実さんは少し照れたように笑う。
「あ、透さんには内緒よ。」
「後悔してますか?」
「うーん…もう少し素直になれてたらなって思うことはあるわね。」
懐かしむように目を細める。
「でもね…あの時の思い出があったから、今の私がいる。」
「そうですか…。」
「間違いなく今の私は幸せよ。
透さんと、娘の友梨のおかげ。」
その言葉は、迷いのない温かさを帯びていた。
「透さん、羽瑠ちゃんの家で料理教わってるでしょ?」
「え?知ってたんですか?」
「まあね。
家族のために努力して、
喜ばせようとしてくれる…
そんなところも愛おしいの。」
その時、リビングのほうから
朔と透さんと友梨ちゃんの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「いいですね…素敵です。」
「羽瑠ちゃんも、きっとそんな未来がくるわ。」
真実さんの言葉は、
不安で揺れていた胸にそっと触れて、
少しだけ温めてくれた。


