万華鏡は月を巻き戻す

夕飯を終えると、
今度はお菓子をテーブルいっぱいに広げた。

「前さ、私の誕生日に読んでくれた本、あれってなんてやつ?」

「ん?あー、寝落ち電話した時ね。」

朔が本棚から一冊を引っ張り出す。

「これ。『恋する逆さまの月』。」

「どういう話?」

「うーん…月が星に恋をするんだよ。
たくさんある星の中で、ひときわ好きな星があってさ。
その星が幸せでいてくれたらいいなって、
ずっと願う話。」

「へぇー。」

「もし読むならあげる。」

そう言って私に差し出す。

「ほんとに?いいの?」

「うん。」

「ありがとう。」

その後も2人で他愛もない話をする。

「それでさ。」

「なにそれ。」

ふっと笑い合う。
楽しくて、賑やかで、
胸の奥がじんわりするような時間。

幸せって、こういう瞬間なんだと思う。


「よし、そろそろ寝よっか。」

「うん。」

「ベッド、俺の使って。」

「え?いいよ。」

「ダメだよ。
大丈夫、俺こっちの布団で寝るから。」

「…わかった。」

部屋の灯りを落とすと、
静けさがふわっと降りてきた。

「ねぇー、まだ起きてる?」

「うん。」

暗闇の中で声だけが近い。

「朔…この先も一緒だよね。」

少し震える声。
自分でも抑えられなかった。

「どうしたの?眠れない?
手でも繋ぐ?」

軽く言うその声が、
逆に優しくて胸が痛くなる。

「…うん。繋いで。」

「うん。」

布団の隙間から伸びてきた手を握る。
そのぬくもりが、
今日いちばん安心する。

「羽瑠が寝るまで繋いであげる。」

その言葉に、
胸の奥がじんわり熱くなった。