万華鏡は月を巻き戻す

図書館の静けさの中で、しばらく2人は黙って宿題をしていた。
ページをめくる音と、シャーペンと紙をすべる音だけが、淡く響く。

ふと、私は朔の横顔を盗み見る。
窓から差し込む光が髪をすべらせて、サラッと揺れた。
その横顔は、やっぱり綺麗だと思う。

ガラス片の傷跡も、ほとんど残っていない。
それが、心の底からほっとした。

「ん?なに?」

気づかれて、肩がびくっとする。

「怪我のあと、大丈夫そうだなって。」

「うん。見た目より浅かったからね。
てっきり俺に見惚れてるのかと思った。」

小声で笑う朔。
いつもの軽い冗談なのに、今日はうまく返せない。

胸の奥がざわついて、落ち着かない。

「ねぇ、朔…。」

呼ぶ声が、自分でも驚くほど弱かった。

朔はシャーペンを置いて、私の顔をのぞき込む。

「なに?不安そうな顔してる。
明日が来るの、怖い?」

図書館の静けさが、余計に心を揺らす。

「…朔がいなくなっちゃう気がして…こわい。」

言った瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。
声が震えて、目の奥が熱くなる。

朔は少しだけ目を細めて、
そっと本を閉じた。

「そっか…。
じゃあ、図書館出よっか。」

その声は、責めるでも慰めるでもなくて、
ただ、私の気持ちを受け止めてくれる響きだった。

「…うん。」

立ち上がると、朔が自然に手を差し出す。
その手を握ると、図書館の冷たい空気の中で
そのぬくもりがやけに強く感じられた。

2人で手を繋いで歩き出す。
静かな図書館を抜ける足音が、
どこか心にしみた。