まさか初恋

放課後の生徒会会議が終わった。
早く帰らなくちゃ。

皆さんに続いて私もすぐ部屋を出るはずだったのに、生徒会長の碧葉(あおば)君に呼び止められてしまうなんて。

紺野(こんの)、ここの数字が間違ってる」

「すっ、すみません!」

さっき提出したばかりの文化祭資料を奪うように受け取り頭を下げた。
再確認ができていなかったみたい。
長身の彼に見下ろされるなんていつものことなのに、つい後ずさってしまった。

「もしかして疲れてる?」

「いえ、そんなことは……」

歴史ある名門校、星菏宮(ほしがのみや)高校の生徒会長、碧葉(あおば)柊佳(しゅうか)君は、いわゆる学園の王子様。

でも良いのは容姿だけじゃない。成績、運動神経、学園をまとめる才覚まで持ち合わせていて家柄まで良いという完璧な人なのだ。

そんな人が『お互いのお父さん同士が親友で約束を交わした』というだけで私の婚約者だなんていまだに信じられない。

学園の皆さんには知られたくないのに隠してもくれないし、何を考えているかまるでわからない。

自信家の碧葉君と目が合うと、何もかも見透かされているような気持ちになって怖くなるの。

「こんな間違い副生徒会長らしくないね」

「見直しが甘かったんです。申し訳ありません」

副生徒会長なんて呼び方だってちょっと嫌味だ。だってこのポジションは生徒会長の推薦枠だから、誰に推されたわけでも自分が希望したわけでもない。

「ほんとに無理してない?」

「お気遣いありがとうございます、お気になさらないでください。資料は直して明日必ず提出しますので今日はこれで失礼いたします!」

「紺野ちょっと待って!」

彼とまともに対話もできない気弱な自分が由緒ある碧葉家の一員なんかになれるんだろうか。
親同士が決めた結婚とはいえ、彼に見合う女の子になることはかなりのプレッシャーだった。