ここ数日、鶴也はまるで別人のようだった。
病院にも頻繁に顔を出すようになり、時絵の好きな海鮮おかゆを毎回持ってきた。
しかし、時絵は一度たりともそれに手をつけなかった。
病院の味気ない弁当を食べても、あの粥には指一本触れなかった。
それがただの「罪悪感」から来るものだと、彼女にはわかっていた。
退院して家に戻った時、鶴也は家にいなかった。
時絵はまず、自分の部屋を片付け始めた。
かつて彼女が選び抜いたペアアイテムや、鶴也への贈り物をすべて引っ張り出した。
ペアアイテムは全てゴミ箱へ。贈り物は執事に譲った。
「小林さん……こんな高価なもの、未開封のものばかりで……私なんかがいただいても……」
執事は喜びながらも恐縮していた。
どれも高価な品ばかりだったからだ。
時絵は包装も解かれていない贈り物を見て、静かに笑った。
──それぞれの品はすべて、鶴也のために時間と心を注いで選んだものだった。
だが彼は、その一つさえ開けようともしなかった。
自分がどれだけ軽んじられていたか、これほど明白な証拠はない。
今思えば、時間も感情も無駄だった。
ちょうどそのとき、玄関の扉が開いた。
鶴也と綾子が一緒に入ってきた。
時絵の姿を見るや否や、綾子は不満げに視線を逸らしながら、渋々頭を下げた。「ごめんなさい、叔母さん。あの時は私が悪かった。許してください」
時絵は少しだけ目を見開いた。
──まさか、本当に彼に謝らせるとは。
だが、だからといって嬉しいわけではない。
この数日、目を閉じるたびに思い出すのは、花粉にむせ返るあの息苦しさ――
目の前のこの女に、あのまま殺されかけた記憶が消えるわけがない。
たった一言の謝罪で、全てを水に流せるはずがない。
時絵は彼女を一瞥すると、はっきりと言った。
「あんたの謝罪なんて、受け取るつもりはないわ。私と同じ苦しみを味わって、地面に頭を下げて懇願するなら考えてもいい。でもそれができないなら、私の前に二度と現れないで」
言い終えると、彼女は振り返り、部屋へと戻っていった。
綾子は顔を真っ赤にして叫んだ。「なによ、あの態度!おじさん、見たでしょ!? あんなの許せない!」
鶴也も時絵の態度に驚いた様子だった。
彼は階段を上がり、部屋のドアをノックしようとしたが――
ふと目に入ったゴミ箱に、眉間に皺を寄せた。
その中には見覚えのある品々がぎっしりと詰まっていた。
──時絵が自分と揃えて使っていたペアアイテム。
歯ブラシやコップ、寝具に至るまで――
また拗ねてるのか?
彼がドアを開けると、時絵はまだ何かを一つずつ荷造りしているところだった。
彼は眉をひそめながら言った。「綾子はちゃんと謝ったじゃないか。それでまだ不満なのか?」
時絵は返事をせず、自分の手を止めることなく作業を続けた。
そしてベッドの枕元にあった二人の写真を額ごと外し、床に叩きつけようとした。
鶴也は目を見開き、慌てて駆け寄って止めようとした。
だが間に合わなかった。
時絵は強い力で写真立てを投げつけ、ガラスは音を立てて粉々に砕け散った。
彼女は中のツーショット写真を取り出し、細かく破って宙に舞わせるようにごみ箱に放り込んだ。
「時絵!お前、いったい何をしてるんだ!」
鶴也の声には、初めて冷淡以外の感情が滲んでいた。
怒り、戸惑い、そして困惑。
時絵は彼をじっと見据えて、冷たく言い放った。「ゴミの片付けよ」
そのとき綾子も階段を上がってきて、そっと鶴也のそばへ寄った。
「おじさん、おばさん、私のこと嫌いなのかな……こんなに怒ってるの、私が悪いからだよね?もしおじさんまで私のこと嫌いなら、私、出ていくから……」
そう言いながら、彼女は今にも泣き出しそうな顔で見上げた。
鶴也は慌てて彼女を抱き寄せて、優しくなだめた。「そんなことないよ。綾子が一番可愛いから。叔母さんはまた調子が悪いだけだ。放っておけばそのうち、いつものようにしっぽを振って戻ってくるさ」
その言葉は、わざと時絵に聞こえるように言っているかのようだった。
彼女にもはっきりと聞こえていた。
時絵は内心で冷笑した。
──昔は確かに彼の後ろを追いかけて、ひたむきに尽くす「犬」だった。
だからこそ鶴也は、今もまだ自信過剰なのだろう。
でも今となっては、二人の姿を見るだけで吐き気がする。
振り返るなんて、絶対にない。
……
夕方、鶴也は再びドアをノックした。
時絵は最初無視しようとしたが、彼がしつこくノックし続けたため、仕方なくドアを開けた。
彼は一枚の招待状を差し出しながら言った。「今夜、フライトショーがある。見に行かない?」
「行かない」
彼はあきらめず続けた。「お前の一番好きなパイロットが出演するんだって。今回限りの来場だそうだよ。本当に行かなくていいのか?」
病院にも頻繁に顔を出すようになり、時絵の好きな海鮮おかゆを毎回持ってきた。
しかし、時絵は一度たりともそれに手をつけなかった。
病院の味気ない弁当を食べても、あの粥には指一本触れなかった。
それがただの「罪悪感」から来るものだと、彼女にはわかっていた。
退院して家に戻った時、鶴也は家にいなかった。
時絵はまず、自分の部屋を片付け始めた。
かつて彼女が選び抜いたペアアイテムや、鶴也への贈り物をすべて引っ張り出した。
ペアアイテムは全てゴミ箱へ。贈り物は執事に譲った。
「小林さん……こんな高価なもの、未開封のものばかりで……私なんかがいただいても……」
執事は喜びながらも恐縮していた。
どれも高価な品ばかりだったからだ。
時絵は包装も解かれていない贈り物を見て、静かに笑った。
──それぞれの品はすべて、鶴也のために時間と心を注いで選んだものだった。
だが彼は、その一つさえ開けようともしなかった。
自分がどれだけ軽んじられていたか、これほど明白な証拠はない。
今思えば、時間も感情も無駄だった。
ちょうどそのとき、玄関の扉が開いた。
鶴也と綾子が一緒に入ってきた。
時絵の姿を見るや否や、綾子は不満げに視線を逸らしながら、渋々頭を下げた。「ごめんなさい、叔母さん。あの時は私が悪かった。許してください」
時絵は少しだけ目を見開いた。
──まさか、本当に彼に謝らせるとは。
だが、だからといって嬉しいわけではない。
この数日、目を閉じるたびに思い出すのは、花粉にむせ返るあの息苦しさ――
目の前のこの女に、あのまま殺されかけた記憶が消えるわけがない。
たった一言の謝罪で、全てを水に流せるはずがない。
時絵は彼女を一瞥すると、はっきりと言った。
「あんたの謝罪なんて、受け取るつもりはないわ。私と同じ苦しみを味わって、地面に頭を下げて懇願するなら考えてもいい。でもそれができないなら、私の前に二度と現れないで」
言い終えると、彼女は振り返り、部屋へと戻っていった。
綾子は顔を真っ赤にして叫んだ。「なによ、あの態度!おじさん、見たでしょ!? あんなの許せない!」
鶴也も時絵の態度に驚いた様子だった。
彼は階段を上がり、部屋のドアをノックしようとしたが――
ふと目に入ったゴミ箱に、眉間に皺を寄せた。
その中には見覚えのある品々がぎっしりと詰まっていた。
──時絵が自分と揃えて使っていたペアアイテム。
歯ブラシやコップ、寝具に至るまで――
また拗ねてるのか?
彼がドアを開けると、時絵はまだ何かを一つずつ荷造りしているところだった。
彼は眉をひそめながら言った。「綾子はちゃんと謝ったじゃないか。それでまだ不満なのか?」
時絵は返事をせず、自分の手を止めることなく作業を続けた。
そしてベッドの枕元にあった二人の写真を額ごと外し、床に叩きつけようとした。
鶴也は目を見開き、慌てて駆け寄って止めようとした。
だが間に合わなかった。
時絵は強い力で写真立てを投げつけ、ガラスは音を立てて粉々に砕け散った。
彼女は中のツーショット写真を取り出し、細かく破って宙に舞わせるようにごみ箱に放り込んだ。
「時絵!お前、いったい何をしてるんだ!」
鶴也の声には、初めて冷淡以外の感情が滲んでいた。
怒り、戸惑い、そして困惑。
時絵は彼をじっと見据えて、冷たく言い放った。「ゴミの片付けよ」
そのとき綾子も階段を上がってきて、そっと鶴也のそばへ寄った。
「おじさん、おばさん、私のこと嫌いなのかな……こんなに怒ってるの、私が悪いからだよね?もしおじさんまで私のこと嫌いなら、私、出ていくから……」
そう言いながら、彼女は今にも泣き出しそうな顔で見上げた。
鶴也は慌てて彼女を抱き寄せて、優しくなだめた。「そんなことないよ。綾子が一番可愛いから。叔母さんはまた調子が悪いだけだ。放っておけばそのうち、いつものようにしっぽを振って戻ってくるさ」
その言葉は、わざと時絵に聞こえるように言っているかのようだった。
彼女にもはっきりと聞こえていた。
時絵は内心で冷笑した。
──昔は確かに彼の後ろを追いかけて、ひたむきに尽くす「犬」だった。
だからこそ鶴也は、今もまだ自信過剰なのだろう。
でも今となっては、二人の姿を見るだけで吐き気がする。
振り返るなんて、絶対にない。
……
夕方、鶴也は再びドアをノックした。
時絵は最初無視しようとしたが、彼がしつこくノックし続けたため、仕方なくドアを開けた。
彼は一枚の招待状を差し出しながら言った。「今夜、フライトショーがある。見に行かない?」
「行かない」
彼はあきらめず続けた。「お前の一番好きなパイロットが出演するんだって。今回限りの来場だそうだよ。本当に行かなくていいのか?」
