彼女がまだ嘘をつき続けているのを見て、鶴也は録音を再生した。
少女の狂気じみた、そして陰湿な声が、個室に冷たく響き渡った。
一瞬の沈黙の後、場はまるで爆発したような騒ぎとなった。
「綾子って、八年前はまだ子供だったろ?その時から斉藤家の財産を狙ってたなんて……怖すぎる!」
「見た目は清楚ぶってたくせに、中身は真っ黒なんだな……!」
……
綾子の顔はみるみるうちに青ざめ、全身が震えていた。
──どうして……どうしてこの録音を持ってるの!?
あの時は、時絵と二人きりだったはず。
まさか、彼女が――
何年もかけて鶴也を誘惑し、やっとここまで漕ぎ着けたというのに。
長年練ってきた計画、それが今、すべて暴かれた。
終わりだ……!
いや、終わらせるわけにはいかない。
このままでは、海浜市から袋叩きにされることになる。
それだけは絶対に嫌——!
綾子は鶴也のスーツをきつく掴んで、必死に縋った。「違うの、私じゃない……これ、私の声じゃないっ……!」
「まだ言い逃れする気か!お前以外の誰だって言うんだ、綾子……お前ってやつは、なんて汚らしくて卑しい女なんだ!」
彼女を見る鶴也の目には、もう一片の情すらなかった。
──どうして……あの時、どうしてこんな女を家に入れてしまったのか。
その叱責に、綾子の中で張りつめていた糸がぷつりと切れた。
──鶴也はこれまで一度も、自分に怒鳴ったことなんてなかった。
それなのに、今は……
「卑しい?それなら、あんたはどうなの!?私を好きって言いながら、他の女に心奪われて……私は、何だったのよ!時絵なんて、私に敵うわけないでしょ!」
パチン!
音が鳴るほどの平手打ちが、彼女の頬を打ち据えた。
「私を……殴ったの?あの女のために私を叩くの!?」
パチン!
さらにもう一発。
綾子はよろめき、地面に倒れ込み、ドレス姿のまま惨めに床に転がった。
「最初から全部仕組んでたんだな。時絵が去るのも分かってたんだろ?誕生日会も……全部、斉藤家に入り込むための茶番だったのか……!」
今にして思えば、すべては綿密に仕組まれた筋書きだった。
「ちょうどよく俺の書斎のドアが開いたのも、お前の仕業なんだな……」
──今思えば、全てが不自然だった。
書斎のドアが開かれていたことも、あの告白も、すべてが演出だった。
鶴也の目から、もはや怒りすらも消え、ただ恐怖と嫌悪だけが残った。
綾子は、もはや何も隠そうとしなかった。
その目に狂気を宿し、叫ぶように吠えた。
「そうよ!全部私が仕組んだのよ!だから何!?あんたこそ、自分の養女に欲情しておいて他の女に心移りなんて……どの口が言うのよ!結局、私たちは同じ――欲に塗れた汚い人間じゃない!
ふふっ……あの女、もうきっとあんたに嫌気がさして逃げたのよ!そんなあんたに、愛なんて、手に入るはずがないのよ!」
その言葉に、鶴也のこめかみに青筋が浮かび、拳が震えるほど怒りに打ち震えた。
「黙れ!こいつを連れていけ、骨町へ」
その言葉に、綾子の顔色が一変した。
──骨町。
海浜市でも最も混沌とした地下市、そこに送られた者は、まともな姿で帰ってこられないことで有名だ。
「いや!やめて!」
先ほどまで狂気に染まっていた綾子の顔からは、すでに一切の余裕が消え失せていた。
彼女は知っていた。
──鶴也が過去にどれだけの人間を、そこへ「処理」してきたか。
彼らは二度と姿を現さなかった。
彼女は恐怖に打ちのめされ、膝を突き、這うようにして鶴也の足元へすがりついた。
「そんなこと、しないで……お願い……私は、私はおじさんが育てたのよ……お願い、間違ってたの、もう結婚もしない、何もしないから……お願い、骨町だけは……」
プライドも恥も投げ捨てて、彼女は床にひれ伏し、泣きながら足にすがった。
周囲の嘲笑も、生き延びることの前には無意味だった。
「……おじさん、覚えてる? あの時、私を守るって言ってくれたよね。二度と傷つけないって、言ったじゃない……」
「そうか?」
鶴也は氷のような視線で見下ろし、地獄から来た悪魔のように、彼女の顎を無慈悲に持ち上げた。
「なら、こう言おう。今は……後悔してる。
その一言が、彼女の全てを打ち砕いた。
「お前のせいで、時絵は……両足を失ったんだ。だから、お前には——生き地獄を味わってもらう」
その言葉を最後に、彼は迷うことなく命じた。「連れて行け」
綾子の悲鳴と懇願が会場に響き渡るなか、やじ馬たちは冷たくその場を後にした。
「……いったい、どうなってるんだ?」
ようやく場の静けさが戻った頃、鶴也の父親が眉をひそめて口を開いた。
鶴也は低く答えた。「……時絵が、いなくなった」
「……だから言っただろう。あんな扱いをすれば、いつか彼女は去ると——」
──父だけじゃない、他にも何人もがそう警告していた。
けれど自分は、聞く耳を持たなかった。
時絵は自分を愛している、どんなに傷つけても戻ってきてくれる――
そう、信じていた。
だが、それは傲慢だった。
繰り返された裏切りと無関心の中で、彼女の愛は静かに、確実に消えていった。
そして今、ようやく思い知った。
彼女は元々、縛られるような人間じゃない。
彼女は──自由なんだ。
だが自分は、もう彼女を愛してしまった。
ようやく、霧が晴れた。
自分がこんなにも彼女のことで苛立ち、苦しみ、怒っていた理由。
それは、愛していたからだ。
「それで、どうするつもりだ?」
——時絵の行き先は、実家以外に考えられない。
会いに行くなら、正式に訪ねるしかない。
「探し出し、連れ戻す」
鶴也の目は決意に輝いていた。
「H市行きのチケットを手配しろ。すぐに!」
少女の狂気じみた、そして陰湿な声が、個室に冷たく響き渡った。
一瞬の沈黙の後、場はまるで爆発したような騒ぎとなった。
「綾子って、八年前はまだ子供だったろ?その時から斉藤家の財産を狙ってたなんて……怖すぎる!」
「見た目は清楚ぶってたくせに、中身は真っ黒なんだな……!」
……
綾子の顔はみるみるうちに青ざめ、全身が震えていた。
──どうして……どうしてこの録音を持ってるの!?
あの時は、時絵と二人きりだったはず。
まさか、彼女が――
何年もかけて鶴也を誘惑し、やっとここまで漕ぎ着けたというのに。
長年練ってきた計画、それが今、すべて暴かれた。
終わりだ……!
いや、終わらせるわけにはいかない。
このままでは、海浜市から袋叩きにされることになる。
それだけは絶対に嫌——!
綾子は鶴也のスーツをきつく掴んで、必死に縋った。「違うの、私じゃない……これ、私の声じゃないっ……!」
「まだ言い逃れする気か!お前以外の誰だって言うんだ、綾子……お前ってやつは、なんて汚らしくて卑しい女なんだ!」
彼女を見る鶴也の目には、もう一片の情すらなかった。
──どうして……あの時、どうしてこんな女を家に入れてしまったのか。
その叱責に、綾子の中で張りつめていた糸がぷつりと切れた。
──鶴也はこれまで一度も、自分に怒鳴ったことなんてなかった。
それなのに、今は……
「卑しい?それなら、あんたはどうなの!?私を好きって言いながら、他の女に心奪われて……私は、何だったのよ!時絵なんて、私に敵うわけないでしょ!」
パチン!
音が鳴るほどの平手打ちが、彼女の頬を打ち据えた。
「私を……殴ったの?あの女のために私を叩くの!?」
パチン!
さらにもう一発。
綾子はよろめき、地面に倒れ込み、ドレス姿のまま惨めに床に転がった。
「最初から全部仕組んでたんだな。時絵が去るのも分かってたんだろ?誕生日会も……全部、斉藤家に入り込むための茶番だったのか……!」
今にして思えば、すべては綿密に仕組まれた筋書きだった。
「ちょうどよく俺の書斎のドアが開いたのも、お前の仕業なんだな……」
──今思えば、全てが不自然だった。
書斎のドアが開かれていたことも、あの告白も、すべてが演出だった。
鶴也の目から、もはや怒りすらも消え、ただ恐怖と嫌悪だけが残った。
綾子は、もはや何も隠そうとしなかった。
その目に狂気を宿し、叫ぶように吠えた。
「そうよ!全部私が仕組んだのよ!だから何!?あんたこそ、自分の養女に欲情しておいて他の女に心移りなんて……どの口が言うのよ!結局、私たちは同じ――欲に塗れた汚い人間じゃない!
ふふっ……あの女、もうきっとあんたに嫌気がさして逃げたのよ!そんなあんたに、愛なんて、手に入るはずがないのよ!」
その言葉に、鶴也のこめかみに青筋が浮かび、拳が震えるほど怒りに打ち震えた。
「黙れ!こいつを連れていけ、骨町へ」
その言葉に、綾子の顔色が一変した。
──骨町。
海浜市でも最も混沌とした地下市、そこに送られた者は、まともな姿で帰ってこられないことで有名だ。
「いや!やめて!」
先ほどまで狂気に染まっていた綾子の顔からは、すでに一切の余裕が消え失せていた。
彼女は知っていた。
──鶴也が過去にどれだけの人間を、そこへ「処理」してきたか。
彼らは二度と姿を現さなかった。
彼女は恐怖に打ちのめされ、膝を突き、這うようにして鶴也の足元へすがりついた。
「そんなこと、しないで……お願い……私は、私はおじさんが育てたのよ……お願い、間違ってたの、もう結婚もしない、何もしないから……お願い、骨町だけは……」
プライドも恥も投げ捨てて、彼女は床にひれ伏し、泣きながら足にすがった。
周囲の嘲笑も、生き延びることの前には無意味だった。
「……おじさん、覚えてる? あの時、私を守るって言ってくれたよね。二度と傷つけないって、言ったじゃない……」
「そうか?」
鶴也は氷のような視線で見下ろし、地獄から来た悪魔のように、彼女の顎を無慈悲に持ち上げた。
「なら、こう言おう。今は……後悔してる。
その一言が、彼女の全てを打ち砕いた。
「お前のせいで、時絵は……両足を失ったんだ。だから、お前には——生き地獄を味わってもらう」
その言葉を最後に、彼は迷うことなく命じた。「連れて行け」
綾子の悲鳴と懇願が会場に響き渡るなか、やじ馬たちは冷たくその場を後にした。
「……いったい、どうなってるんだ?」
ようやく場の静けさが戻った頃、鶴也の父親が眉をひそめて口を開いた。
鶴也は低く答えた。「……時絵が、いなくなった」
「……だから言っただろう。あんな扱いをすれば、いつか彼女は去ると——」
──父だけじゃない、他にも何人もがそう警告していた。
けれど自分は、聞く耳を持たなかった。
時絵は自分を愛している、どんなに傷つけても戻ってきてくれる――
そう、信じていた。
だが、それは傲慢だった。
繰り返された裏切りと無関心の中で、彼女の愛は静かに、確実に消えていった。
そして今、ようやく思い知った。
彼女は元々、縛られるような人間じゃない。
彼女は──自由なんだ。
だが自分は、もう彼女を愛してしまった。
ようやく、霧が晴れた。
自分がこんなにも彼女のことで苛立ち、苦しみ、怒っていた理由。
それは、愛していたからだ。
「それで、どうするつもりだ?」
——時絵の行き先は、実家以外に考えられない。
会いに行くなら、正式に訪ねるしかない。
「探し出し、連れ戻す」
鶴也の目は決意に輝いていた。
「H市行きのチケットを手配しろ。すぐに!」
