都合のいい女をやめた日、私は空へ戻る

電話越しに聞こえる少女の声を聞いても、鶴也の心はもう、以前のように波立つことはなかった。

彼は無表情のまま、冷たい声で言った。「すぐに着くよ。サプライズを用意してある」

「ほんとっ!?」

綾子はぱっと顔を輝かせた。

──時絵が姿を消してからというもの、鶴也は自分に冷たくなっている。

だが今、自分からプレゼントの話を持ち出すなんて……!

電話をかける時、彼が来ないんじゃないかと不安で仕方なかった。

でも、やっぱり大丈夫だった。

彼の心には、やっぱり自分がいる──

斉藤家の奥様になる日も遠くない。

時絵なんてただの通りすがりに過ぎない。

鶴也の心にいるのは、自分だけなのだ。

電話を切ると、鶴也はすぐに運転手に命じた。

「ホテルに向かえ」

ホテルでは既に鶴也の親が到着しており、会場には業界関係者だけでなく、名家や財閥の関係者たちも顔を揃えていた。

斉藤家の一人息子がスキャンダルの渦中にある以上、こうして公に婚約を発表することで、世間の口を封じる必要があったのだ。

綾子はその場を楽しんでいた。

念入りに選んだウェディングドレスを着て、入り口を期待に満ちた眼差しで見つめた。

そしてついに、スーツ姿の鶴也が現れた。

綾子は目を見開き、ドレスの裾をたくし上げて鶴也へ走り寄った。

抱きつこうとした瞬間、彼は巧みに身をかわした。

周囲からざわめきが起こり、囁き声が広がった。

「どういうこと?鶴也って、あの養女をすごく可愛がってるって話だったよね?」

「まさか、今になって気が変わった?だって彼って斉藤家の跡取りだよ?いくらなんでも、素性の知れない娘と結婚するわけないだろ。本来なら小林家の令嬢と結ばれるべきだったのに」

……

それらの言葉は鋭い針のように綾子の耳に刺さった。

特に時絵の名が出た瞬間、抑えきれなかった感情が爆発しそうになった。

「おじさん……今のって、どういうこと……?」

だが、今の鶴也は、もう昔のように彼女を甘やかしてくれる存在ではなかった。

彼は静かに彼女を見つめた。

綾子はその視線の違和感に気づき、笑顔を引きつらせながら頬を撫でた。「ど、どうしたの……鶴也?」

「誰が、お前にその名前で呼んでいいと許した?」

彼の声は氷のように冷たかった。

周囲のざわめきはさらに大きくなり、鶴也の親も、一切口を挟もうとしなかった。

綾子は真っ赤になり、指先が震え始めた。「おじさん……もうすぐ私たち、結婚するのよ?名前で呼ぶくらい、普通のことでしょう?嫌なら、ちゃんと変えるから……」

だが鶴也は冷たい視線を外さなかった。「誰が……お前と結婚するなんて言った?」

──昔なら、自分はとっくにこの少女を抱きしめ、優しく慰めていただろう。

だが今、この心には、哀れみも優しさも一切ない。

あるのはただ、嫌悪と怒りだけ。

この女が、裏でどれだけ陰湿で狡猾だったかを思い出すたびに、怒りが込み上げてくる。

「綾子……こんなにも腹黒いお前と、俺が結婚するとでも?」

「おじさん……何言ってるの……?」

綾子は、信じられないといった様子で目を見開いた。

鶴也は鼻で笑い、ポケットから数枚の写真を取り出し、彼女の顔に突きつけた。

それは、展示会当日の控室での監視映像から切り出されたものだった。

「俺が何を言ってるか……お前自身が一番わかってるだろ?」

何枚もの写真が、パラパラと舞うように床に散らばった。

それを目にした綾子は、一瞬で顔から血の気が消え、その場に固まってしまった。

──どうして?そんなはずない。

まさか、こんなものが見つかるなんて。

彼女は慌てて鶴也の腕をつかみ、言い訳した。「おじさん、これは私じゃない!誰かが私を陥れようとしてるの!私がそんなことするはずないでしょ!」

──証拠がなければ、自分も彼女がこんなことをするとは信じられなかっただろう。

「じゃあ、これはどう説明する?」