――初デート。
そう言われても、まだ少しだけ現実感がない。
待ち合わせ場所の前で、何度も時間を確認する。
落ち着かない。
心臓が、ずっと早いまま。
「……早い」
小さく呟いたとき。
「シロ」
後ろから声。
「……っ」
振り向く。
神崎くん。
いつも通りの顔。
でも。
その呼び方に、少しだけ引っかかる。
「おはよ」
「……おはよう」
並んで歩き出す。
街の中。
人が多くて。
でも。
隣にいるのが、この人だと思うと。
少しだけ、安心する。
「どこ行く?」
「……任せます」
「じゃあ適当にぶらぶらするか」
会話は少ない。
でも。
沈黙が、嫌じゃない。
「シロ」
また、名前を呼ばれる。
そのたびに。
胸の奥が、少しだけ揺れる。
「……はい」
答える。
でも。
その名前は。
もう、前の私のものな気がして。
少しだけ。
違うと思った。
「なあ」
「……はい」
「手、繋ぐ?」
「……っ」
急に言われて、固まる。
「……無理です」
「なんで」
「……恥ずかしいからです」
「顔赤い」
「見ないでください」
くすっと笑う声。
そのまま、少しだけ歩く。
夕方。
空が、少しだけオレンジに染まっている。
「……綺麗」
思わず呟く。
「だな」
隣で、同じ空を見る。
そのとき。
「シロ」
呼ばれる。
「……はい」
返事をして。
――少しだけ、間があく。
そして。
「神崎くん」
「ん?」
心臓が、うるさい。
でも。
逃げないって、決めたから。
「シロじゃなくて……」
声が、少し震える。
それでも。
顔を上げる。
「さ、な」
一音ずつ、確かめるように。
「……私の名前」
ちゃんと、伝える。
「沙奈」
空気が、静まる。
ほんの少しの沈黙。
でも。
「……沙奈」
神崎くんが、ゆっくり呼ぶ。
その声が。
優しくて。
ちゃんと、大切にされている感じがして。
「……はい」
自然に、返事ができた。
“シロ”じゃない。
本当の名前で。
ここにいる。
「いい名前」
その一言で。
胸の奥が、じんわり温かくなる。
ずっと嫌だった名前なのに。
初めて。
嫌じゃないと思えた。
「じゃあ、沙奈」
名前で呼ばれる。
そのまま。
そっと、手が差し出される。
「今度こそ、いい?」
少しだけ迷って。
でも。
ゆっくり、手を重ねる。
「……はい」
指が、絡む。
温かい。
怖くない。
ちゃんと、自分で選んだ。
その感覚。
――“シロ”じゃない私で。
初めて、誰かの隣に立てた気がした。
そう言われても、まだ少しだけ現実感がない。
待ち合わせ場所の前で、何度も時間を確認する。
落ち着かない。
心臓が、ずっと早いまま。
「……早い」
小さく呟いたとき。
「シロ」
後ろから声。
「……っ」
振り向く。
神崎くん。
いつも通りの顔。
でも。
その呼び方に、少しだけ引っかかる。
「おはよ」
「……おはよう」
並んで歩き出す。
街の中。
人が多くて。
でも。
隣にいるのが、この人だと思うと。
少しだけ、安心する。
「どこ行く?」
「……任せます」
「じゃあ適当にぶらぶらするか」
会話は少ない。
でも。
沈黙が、嫌じゃない。
「シロ」
また、名前を呼ばれる。
そのたびに。
胸の奥が、少しだけ揺れる。
「……はい」
答える。
でも。
その名前は。
もう、前の私のものな気がして。
少しだけ。
違うと思った。
「なあ」
「……はい」
「手、繋ぐ?」
「……っ」
急に言われて、固まる。
「……無理です」
「なんで」
「……恥ずかしいからです」
「顔赤い」
「見ないでください」
くすっと笑う声。
そのまま、少しだけ歩く。
夕方。
空が、少しだけオレンジに染まっている。
「……綺麗」
思わず呟く。
「だな」
隣で、同じ空を見る。
そのとき。
「シロ」
呼ばれる。
「……はい」
返事をして。
――少しだけ、間があく。
そして。
「神崎くん」
「ん?」
心臓が、うるさい。
でも。
逃げないって、決めたから。
「シロじゃなくて……」
声が、少し震える。
それでも。
顔を上げる。
「さ、な」
一音ずつ、確かめるように。
「……私の名前」
ちゃんと、伝える。
「沙奈」
空気が、静まる。
ほんの少しの沈黙。
でも。
「……沙奈」
神崎くんが、ゆっくり呼ぶ。
その声が。
優しくて。
ちゃんと、大切にされている感じがして。
「……はい」
自然に、返事ができた。
“シロ”じゃない。
本当の名前で。
ここにいる。
「いい名前」
その一言で。
胸の奥が、じんわり温かくなる。
ずっと嫌だった名前なのに。
初めて。
嫌じゃないと思えた。
「じゃあ、沙奈」
名前で呼ばれる。
そのまま。
そっと、手が差し出される。
「今度こそ、いい?」
少しだけ迷って。
でも。
ゆっくり、手を重ねる。
「……はい」
指が、絡む。
温かい。
怖くない。
ちゃんと、自分で選んだ。
その感覚。
――“シロ”じゃない私で。
初めて、誰かの隣に立てた気がした。



