こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 人は窮地に立たされたとき、正常な判断が出来るのだろうか。
 例えば、テスト前夜にゲームの誘惑があったとしよう。クリアしておきたいイベントが発生するとして、どちらを優先させるべきか頭を悩ませる。

 本来ならば周回したいが、勉強をしなくては点数に影響が出るかもしれない。そんな時、僕が下す決断はとりあえずゲームをしろ、だ。

 イベントはその時限り、その時間にしかやって来ない。山を張って勉強したところが出題されるとは限らないのだ。ならば、答えは決まっているだろう。
 そんな感じで究極の選択をして、あとで後悔することもあったりするのだが、これがもっと危機感の増すものだとしたらどうするか。

 ワイヤレスイヤホンを付けて、帰路を歩く。駅まで徒歩数分の距離だから、周りの雑音をシャットアウトして帰るのが僕の日常なのだ。
 高校付近の道路は、それほど交通量も多くない。と、油断していたらしい。台風が近づいているとかで、今日は風が強い。

「おっふ!」

 紙が飛んできて、目の前を覆われた。即座に顔から剥ぎ取る。くそっ、誰だよ五点のテスト落としたヤツは。

 視界が良好になったところで、ハッと目を疑った。風に押されながら、ふらふらと傾いて動くトラック。前方には百合園さんが歩いているのが見える。
 ……これは、マズイぞ!
 気付いたら走っていた。

「ーーゆ、百合園さんっ!」

 聞こえていないのか止まらない。もしかしたら、彼女の耳も塞がっているのか!
 イヤホンを外して、僕はもう一度名前を叫んだ。でも反応がない。あと一歩で背中を押せる。
 けれど、トラックはすぐそこまで来ていて、キキキィとタイヤ音とクラクションが鳴り響く。