こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

「さっきの、ほんと?」
「……へ?」
「……わたしのこと、好きって」

 急に顔が熱くなって、湯船でのぼせたみたいになった。
 慌てたら、みっともない。落ち着け、落ち着いて話せ。

「もしかして、まだ……見てない?」

 制服のポケットに入れたままになっていた紙。そっと広げてみると、丁寧な字がはっきりと並んでいた。

 ーー山田くんがすき。
 何度目を凝らして見ても、そう書いてある。
 百合園さんが、僕を、好き?

「……えっ、どこが?」

 第一声がこれとか、彼女に失礼だろと思いながら、疑問しか浮かばなかったから。

「うーん、ぜんぶ」

 りんご飴みたいになる僕を見て、クスッと笑う百合園さん。
 ワカラナイ。顔も冴えない地味な奴なのに、まだ夢なのではないかと疑っている。

「山田くんは気付いてないと思うけど、実はわたしたち昔ね……」

 耳打ちされたとたん、頭上からギギギと不穏な音がして、なにかがバキッと鳴った。
 木の上に乗っていたムタが飛び降りると同時に、枝分かれした太い幹が落ちてくる。

「えっ、ええっ⁉︎」

 百合園さんを庇おうとするより先に、力強い腕力で抱き抱えられた。空を飛び上がって、スタッと軽やかに着地する。
 さっきまで立っていた地面に木が叩きつけられて、真っ二つに折れた。
 どうして、こうなった? この学校危なすぎやしないか。

「山田くん、大丈夫?」
「あ、ありがとう」

 無傷なのを確認する姿もたくましい。
 可愛らしくて儚げなのに、彼女は人一倍強くて優しい。

「やっぱ、百合園さんはそのままが一番いい」

 心でつぶやいたはずが、口に出ていた。
 ふふっと笑う百合園さんが、少しだけ口を尖らせる。

「でも、やっぱり少女漫画みたいな恋愛がしたいな」
「……僕で、よければ」

 そっと触れた手のひら。少し間をあけて、指の隙間にキュッと入り込んで来た。

「よろしくお願いします」

 ふとした瞬間に少年漫画の主人公になる百合園さんは、今日も僕の隣で、天使のように笑っている。
 
                   fin.