こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

「……話したいことが……あるんだ」

 バクバクと動く心臓が、只ならぬ状況であることを示している。

「前に、好きになった人がいないって、言ったけど。あれは……嘘だった」

 面と向かって、誰かに想いを伝えることなどなかった。
 そもそも、人と接することが苦手だった僕に、初めて話しかけてくれたのが百合園さんで。誰かと話すのが楽しいと思えたのも、全て彼女がいたから。
 最初は、変わったお願いに付き合わされていると思っていたけど、今は違う。

「僕は、百合園さんの……ことが、好き、らしい」

 胸の奥から振り絞った言葉は、ところどころ震えていた。
 みるみるうちに、百合園さんの頬が赤く染まり上がっていく。キラキラ光る瞳もすごくキレイで、僕の目だけに閉じ込めておきたくなる。

「いや、す、好きだ。成瀬先輩と、付き合ってほしく……ない」

 やっと言えた。
 小さく息を吐きながら、まだ速いままの鼓動を鎮めようとする。

「……付き合わないよ?」

 パチパチと音が鳴るくらい大きな瞬きをした。
 それから、頭の中で復唱した台詞を噛み砕く。聞き間違いじゃない。たしかに、言った。

「だって、さっき、手紙を……」

 渡していたのは、この前書いていた愛の告白じゃないのか?
 だとしたら、なにをーー。

「フォトコンクールにわたしの写真を出したいって頼まれてて。悩んだけど、いいですよってお返事しようとしてたん……だけど」

 フォトコンクール?
 そういえば、成瀬琉生は写真部だったと風の噂で聞いたことがある。

 なんだ、僕の早とちりだったのか。ホッ、じゃない! いきおいあまって、とんでもないことをしたばかりだ。
 割り入って告白なんかして、もう終わりだ。気持ち悪がられたに決まっている。