こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 すると、うーんと考えるような素振りをして、三又依子がふふっと笑った。

「なりませんね〜。愛おしくて仕方ないですが、あれと同じですよ。5歳児の手を引いて歩く親御さんの気持ちと」

 なんの会話なんだ。告白したわけじゃないのに、なぜかフラれた気分だ。
 心なしか、百合園さんの頬が上がっている。背表紙をなぞって、本を取る手の機嫌が良さそうだ。

「……そっか……そうなんですね。じゃあ、わたしはそろそろ帰ります」

 もう行っちゃうのか。
 視線を下げたとき、手のひらにカサッとしたものが当たって、握るように何かを渡された。
 ……なんだ? 紙か?
 すれ違いざま、一瞬だけ視線が触れ合って、百合園さんは図書室を出て行った。

「まーくん、どうかしました?」

 顔を見られないように下を向きつつ、握りしめている手を隠す。
 尋常じゃないくらいの手汗と、動悸がうるさい。

「……なんでもない」
「ならいいですけど。あっ、そういえば、これ。百合園さんが忘れていったみたいなので、渡しておいてくれませんか?」

 書類でも入っていそうな茶封筒だ。本を取るときに置いて、そのままになっていたのか。
 そのあとすぐ、三又依子は生徒会へ向かった。

 重要なものだと困るだろうし、まだ教室に残っているかもしれない。
 広げたい気持ちと握っていた紙を制服のポケットに入れて、僕は百合園さんを探した。
 教室に彼女の姿はなく、できる限り校内を歩いてみたけど見当たらない。かばんが机の上に残されていたから、学校のどこかにいることは確かだ。
 どこへ行ったんだ?

 なんとなく裏庭へ出て、急がせていた足を緩めた。校舎の角から人の気配がする。