こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

「山田くん、知ってた?」

 百合園さんの持つ手紙が、窓の隙間からくる風にゆらゆら揺れている。

「なんでもないような文章に見えても、実は意味があったりするんだよ」
「……へ、へぇ」

 人差し指で、初めの文字を指さしながら、

「たとえば、丸で区切った頭文字を繋げてみるとか」

 言われた通りに視線で追ってみる。
 ず……す……。
 だけど、すぐに紙は折られて、桃色の封筒へ入れられた。

「これ以上はひみつだよ」

 人差し指を唇に当てて、百合園さんはシーッというポーズをする。

「……でも、これ、伝わるのか?」

 普通の人間なら、ただの作文にしか見えないぞ。暗号を解くヒントでも書いておかないと。

「絶対、分かってもらえると思う。完成させて、来週には渡すつもりなの」
「……そっ……か」

 ありがとねと手を振って、百合園さんは弾むように部室を出て行った。
 がくんと机に突っ伏したまま、しばらく動けそうにない。もう、死にたい。

 開けた窓から、しとしと雨が降る音が聞こえてきた。
 予報だと、夜から降るはずだっただろ。嘘つきめ。
 百合園さん、傘持って来たかな。来週、告白の返事をしたら、きっと付き合うことになるんだろう。
 そしたら、成瀬琉生の傘に入って帰るのも、時間の問題というわけか。想像しただけで、体調を壊しそうだ。

 下校の音楽を聴きながら、のっそりと体を起こす。
 悪夢のカウントダウンは、まだ始まったばかり。