こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 くそっ、人が多すぎる。外なのに空気も薄く感じるし、なにより熱気がすごい。人に酔いそうだ。

「あのさ、百合園さん……たちが……あれ?」

 探していた視線を前に向けるけど、あるはずの人影がない。崎田とカザネまで、はぐれてしまったようだ。
 ……マジかよ。夏祭りって、とんでもないな。

「みんないなくなっちゃいましたね〜。どうしましょうか」

 背伸びしながら、目の上に手を当てて辺りを見渡している。

「どこか目印になるところで待つしかない。とりあえず、ココアしないと」
「そうしましょう」

 近くに見えた鳥居をくぐり、小さな神社の前で待機することにした。
 グループココアに連絡を入れたから、合流するのは時間の問題だ。ーーでも。

 右往左往と歩きまわって、気が気じゃない。
 こうしているうちに、成瀬琉生が告白でもしていたら。良い雰囲気になって手を繋いだり、最悪の場合はキ……いや、その想像はなしだ。
 あまりに落ち着きがなかったためか、三又依子がクスクスと笑い出した。

「まーくんってば、そんなに心配しなくても、ちゃんとみんなに会えますよ」
「そ、そうだけど」

 神社の階段に座る彼女が、僕の頭をポンポンと叩いて。

「それとも、心配なのは成瀬くんとだからかな?」

 ニマリとした目が僕の顔を覗き込む。どん、と心臓が音を立てた。
 空に浮かぶ花が、鮮やかに散っていく。花火が始まったのだ。
 そっとメガネを外した彼女が、黙ったままの僕の肩に手を置いて。

「もう、あの頃の泣き虫まーくんではないんですね。ちょっと寂しいな」

 耳元に響く声は、静かに消えていった。