こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 とっさに離せなかった。つい、手を掴んだまま倒れたものだから、百合園さんまでバランスを崩して。
 ドサッと、僕の上に倒れ込む体勢になる。
 一瞬、なにが起きたのか理解出来なかった。

 天を仰いだ状態で、目と鼻の先に百合園さんの顔がある。
 マ、マズイぞ。この状況は、非常によろしくない。

「あの……ごめ……」

 お互いに頬を赤らめている。それでも、百合園さんは僕を見下ろしたまま動こうとしない。まるで、ネジの壊れたオートマタみたいに。

「……山田くんは、知らないかも……しれないけど。ほんとは、わたし……」

 ーーダダンダンダダン、ダダンダンダダン。突然、聞き覚えのある音楽が流れてきた。
 これは、おそらく有名な某洋画のテーマ曲。かなり古い映画で、父がよく見ていた。
 緊張の糸が、プツンと切れる。

 な、なんだ? よく分からない空気が流れ始める。

「……ごめんなさい」

 ハッとした顔をして、百合園さんが体を離した。長くて綺麗な髪を触りながら、ベッドからゆっくり脚を下ろす。

「親から連絡が来たから、今日は、帰るね」
「あっ、あの……」

 降りようとして、いきおいあまって足の小指を机で打った。
 くうううう……これは、めちゃくちゃ痛いぞ。
 うずくまっている間に、百合園さんは帰ってしまった。

 やらかした……絶対に嫌われた。
 ベッドにぽつんと残された写真を手に取る。それはファンタジーランドへ行った時のもので、三又依子との写真ではなかった。
 天使の下でポーズをとる2人。となりに写っている女の子を見て、僕は首をかしげる。

 あれ、これって迷子になった時のだよな。僕はひとりじゃなかったのか。
 2人とも目が赤いが、一緒に泣いてたのか。あまり記憶にない。
 それにこの子、誰かに似ている気がする。
 まさか……な。ありえない。
 一瞬過った顔をかき消して、僕は引き出しに写真をしまった。

 それにしても、さっき百合園さんはなにを言おうとしていたんだろう。
 まだ、心臓の高鳴りがおさまらない。