こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 ベッドに腰を下ろした百合園さんが、漫画を読み始めて1時間ほどが経つ。
 少し離れたところで、同じように読む僕はそわそわと落ち着かないでいた。気が散って、どうも集中出来ない。

 二冊目が手から離れたところで、コンコンとノックする音が鳴る。
 ちょっと、待て。まさか、と思ったときには、すでにドアが少し開けられていて、隙間から目がこちらを覗いていた。

「ひっ、か、母さん⁉︎」

 まるでホラーだ。恐怖映像と言ってもいい。

「あら、ごめんね〜。そろそろ喉が渇いたんじゃないかと思って」

 そそくさと部屋へ入り込んで、百合園さんにジュースを渡す。
 緊張した感じで、彼女がお礼を言う。
 嬉しそうにニヤニヤして、この母親は油断ならない。
 僕の耳元で、「例の子?」とささやく。どうせ三又依子かと聞きたいのだろう。勘違いもはなはだしい。

「もう、いいから。早く出ていけよ」

 ぐいぐいと背中を押し出す時に、いつの間に持っていたのか、母の脇に挟んでいたアルバムが落ちた。
 百合園さんが写真を拾ってくれるけど、見られたくない。

「わ、わ、ありがとう!」

 ドアを閉めてから、慌てて取り返そうとする。けど、ひょいと身をかわされて、写真を直視された。

「……これって」
「や、やめろ、見るな!」

 腕を引っ張ったとき、ちょうど膝の裏にベッドの外枠があったらしい。足が当たって、僕の体は反り返った。