こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

『家とか』

 飛行機マークを押してから、我に返る。
 あれ、今、結局なんの話をしていた? 人混みじゃない人の少ない場所はどこか、だよな。

『おーい! 山田反応しろ』

 グループの方で、崎田が叫んでいる。しまった、向こうで反応するのをすっかり忘れていた。

『ちょっと待って、今考えてる』
『なんだよ。予定でもあんの?』

 相変わらず、秒で返ってくる。その瞬発力には脱帽だ。

『じゃあ、今度遊びに行ってもいい?』
『山田くんち』

 ポロンと上のテロップに浮かぶ文字。
 一度スマホを遠ざけて、改めて画面をマジマジと見る。見間違えじゃないよな。
 百合園さんが、僕の家に来るだと⁉︎

『最近、漫画読みたいなって思ってて』
『おすすめあったら、貸してほしくて』

 スマホを持つ手がぷるぷると震えてきた。
 待て待て、どう返すのが正解なんだ? 即答するのはがっついてる気がするし、濁したらじゃあいいと捨てられるかもしれん。
 ええい、迷うな! 男なら、チャンスを逃すな!

『いいよ』

 いきおいあまって、送ってしまった。これは、一大事だぞ。
 ポロンと鳴って、気持ち悪い動きをしたネコのオッケースタンプが目に入る。
 百合園さんがこんなの押すなんて、珍しいな。まるで崎田じゃないか。

『よし、じゃあ時間いつにするか決めるぞー!』

 カザネの返信を見て、サッと血の気が引く。
 グループと個人のトークを行き来していたから、間違えていることに気づかなかった。
 僕はさっき、グループトークで発言していたのだ。

「……うそだろ。あの勇気……返せ」

 ソファーにがくっと崩れ落ちるけど、話は勝手に進んでいく。
 こうして、夏祭りへ行く約束を交わしてしまったのだった。