こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 メキメキと、何かがめり込むような音がする。
 なんだろうと前を向くと、百合園さんの持つ本がスポンジを握り締めているみたいにへしゃげていた。
 これ、単行本だよな。なんか、怒ってる?

「……三又先輩。さっき、生徒会の先生が探してましたよ」
「そうでした! ありがとうございます〜! まーくん、また明日ね〜」

 三つ編みを揺らしながら、三又依子は嵐のように去って行った。
 一体、なんだったんだ。
 とりあえず、落としてしまった残りの本を拾っていると、百合園さんがつぶやく。

「山田くんって、三又先輩と知り合いだったんだね」
「知り合いというか……なんか、昔に会っていたらしい。僕は全然覚えてないが」

 いきなり現れて幼馴染と告げられても、いまいちピンと来ていない。
 百合園さんの反応も、そっかと薄かった。まあ、僕の私事情になど興味もないか。

 教室を出て、正面玄関に着いた。空から、しとしとと水滴が落ちてくる。

「雨降ってるね」
「今日の予報、午後から雨になってたから」

 かばんから折りたたみ傘を出して、開こうとすると。

「そうだったんだ。わたし、持ってくるの忘れちゃったな」

 百合園さんが、隣に並んで言った。
 この流れって、駅まで傘に入って行くか聞いた方がいいのか?
 いや、こっちが親切心のつもりで提案したとしても、向こうにとっては気持ち悪いかもしれん。……どうしたら。