こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 移動教室、昼休み、放課後。3年の生徒会長が、なぜ常に目の前に現れるのか。説明してほしい。

「まーくん! 一緒に帰りましょう〜」

 まだクラスメイトが残っている最中、三又依子が教室へ押しかけて来た。
 勘弁してくれ。何事かと、みんな僕らに注目している。

「す、すみません。お腹、痛いので……」

 さっさとかばんを持って、彼女の横を通り過ぎた。のだが、ガシッと腕を掴まれて、引き止められる。

「大丈夫ですか? そういえば、まーくん、すぐお腹痛くなってましたね。私でよければ、送って行きますよ〜」
「い、いや……その」

 人との交流に慣れていないためか、この状況に赤面してしまう。
 慌てて教室を出ようとした時、入って来た生徒とぶつかった。その人が持っていた本が、床へと散乱する。

「……すみません」

 拾い集めていると、しゃがみ込む脚が目に入った。細くて健康的な太ももから、徐々に視線を上げる。
 百合園さんが、首を傾げて僕を覗き込んでいた。

「ゆ、百合園さん! あの……」

 一番見られたくない人に出くわしてしまった。
 背後から三又依子が迫って来て、僕の顔を覗き込み、そのまま額に手を当てて、うんと頷く。

「熱はないみたいですね」

 近すぎる距離から、すかさず逃げて言葉を失う。たとえ幼馴染だったのだとしても、心臓に悪い。