こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 アニメを見たり漫画を読んでいて、ふと疑問が湧き上がる瞬間がある。
 誰しも、一度は頭を過ぎったことがあるはずだ。
 なぜ、自分には幼馴染という存在がいないのだろう、と。
 そもそも、小学校低学年の頃から特定の人と関わった記憶がない。致命傷だ。
 そんなことを考えながら校内を歩いていたから、反応が遅れた。階段から小走りで来た人とぶつかってしまった。

「あっ……すみま……」
「め、め、目が……」

 相手の女子生徒は、地べたを這いつくように手探りで何かを探している。おそらく、僕の手元に落ちているメガネだろう。

「……あの、これ」

 目元を手で隠しながら、三つ編みの女子生徒は僕の手からメガネを受け取った。
 慌てて付けて、鼻を打って悶えている。僕より挙動不審な人がいるんだ。
 スカーフの色が白いから、三年生だろうか。

「け、け、怪我はないでしょうか?」

 バッと両腕を掴まれて、メガネ越しの瞳に覗き込まれる。……び、びっくりした。初対面なのに、かなりの至近距離だ。

「だ、だいじょうぶ……です」

 やんわりと後退するけど、彼女がさらにぐっと顔を近付けて。

「……まーくん?」

 首を傾げる彼女と同じ方向に、僕も首を捻る。
 ま、ま、まーくんだと? なんだその呼び名は! というか、どうして僕の名前を知っている! 初対面のこの人が!

「やっぱり、まーくん! 真人くんですよね! うわぁ〜久しぶりですね〜。懐かしいです〜。元気にしてましたかぁ?」

 くいっとメガネをあげて、ぐいぐいと迫ってくる。
 じょ、状況が全く飲み込めない!