こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 男とは単純な生き物だ。そう誰かが言っていた。全くその通りだと僕も思う。
 だってさ、一瞬女子と目が合ったり、消しゴムを拾ってもらっただけで、自分のことが好きなんじゃないかと錯覚出来るんだぞ?
 素晴らしくポジティブでいいじゃないか。
 でもそれは、自分に自信があるからこその思考なのだ。

 例えば、僕の斜め前の席に座る崎田(さきた)。クラスのムードメーカーで、男女とも友達が多い。
 最近ピアスを開けたとかで、俺はモテるぜオーラが体中からプンプン出ている。

「どの角度から見ても可愛いよな〜百合園さん」
「マジで神だな」
「俺、さっき目合った」
「えー、ずりぃ」
「ぜってぇ気あるよな?」

 ねーよ。僕なんかがっつり見つめ合ったから。手まで握られちゃってさ。
 カリカリと書き残していた黒板を写しながら、心の中でツッコむ。

「その辺の女子にはない、こう儚さっていうの?」
「分かるわー! 重い荷物持てなそう。腕細すぎだろ」

 片手で男子1人持ち上げられると思う。しかも、熊を飛び蹴りしてたからな。
 可哀想な妄想を繰り広げているところ申し訳ないが、人を見た目で判断すると痛い目に遭うぞ。
 彼女の本性を知ってもなお、お前らは好意を寄せられるのか?

 ……あっ、まだ途中だったのに。
 日直に消されていく文字を必死に追っていると、視界にスカートが入って来た。
 おもむろに顔を上げたら、百合園さんがにこりとして僕を見ている。

「これ、わたしの貸してあげる」

 差し出された現文のノート。緊張しながら受け取って、軽く頭をさげた。
 百合園さんは、誰に対しても優しい。
 だから、お前だけが特別じゃないんだ。
 斜め前からトゲトゲしい視線を感じながら、ノートを広げた。