こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 脚の間に顔を埋めたからか、声がこもって聞こえた。
 ぷっ、と思わず吹き出してしまう。あれだけ堂々と啖呵切ってるヤツでも、そんなこと思うのか。

「……なに笑ってんだよ、おまえ」

 じろりと睨む目付きは、さすがにびびったが、もしかしたら自分を強く見せるための行為なのかもしれないな。

「……キレイな顔してるんだから、もっと自信持っていいと思うけど」

 あ、ヤバい。思わずこぼれた言葉を、どうか拾わないでくれと祈る。
 再び顔を下げたカザネが、プシューと空気の抜けた風船のように。

「よ、余計に外せなくなったじゃないか……」

 先ほどまでの刺々しさが消えて、弱々しく嘆いた。
 照れてるのか? 意外と素直な一面もあるんだな。

「……あと、言葉遣いをもう少し柔らかくしたらいいと思う」
「……調子に乗んなよ」
「ほらそれ。普通に怖いです」

 しばらく沈黙したのち、カザネは「そうか」とだけつぶやいた。
 出会った当初のことを考えると、角が取れて来た気がする。今では、僕や崎田も普通に会話が出来るのだから。

 部屋へ戻ろうと促したけど、カザネは首を振った。どうやら、ホテルや旅館にひとりは幽霊が出そうで怖いようだ。
 バイクをブイブイいわせているヤツが、よく言うよ。僕からしたら、よっぽどそっちの方がおっかないぞ。

「……じゃあ就寝まで。もう少し、ここにいてもいいけど」
「山田も1人がイヤなだけだろ」
「……うるさい」

 どうせ部屋へ戻ってもぼっちだよ。
 でも、不思議だ。その方が気楽で自由に過ごせるはずなのに、今はそれほど苦痛じゃない。むしろ会話を楽しんでいる自分がいる。

「……ウソだよ。ありがと」

 視線こそ合わなかったけど、横顔に笑みが浮かんでいるのが、なんとなく分かった。
 そうか。仲間はずれに慣れたと思っていたけど、違ったのか。言い聞かせていただけで、心の奥底では思っていたんだ。

 ーー可能なら、ほんとは誰かといたいって。