こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 頭から湯気を出しながら、のほほんと部屋へ帰る。
 みんながいなくなってから入る露天風呂は最高だ。静かに黄昏れることが出来るし、なにより自分のペースで出られるからな。

 1人の言い訳をしつつ、ロビーの前を通ったとき。知れた人影が目に映った。
 あれは、カザネじゃないか? あんなところで、何をしているんだろう。まあ、僕には関係ないけど。

 素通りしてから、もう一度戻ってみる。黙って、僕は隣に腰を下ろした。その背中が、自分と重なって気になったから。

「なんだ、山田じゃねぇか。……どうした」

 カザネの声は、外の色と同じで暗く感じた。

「……部屋戻っても、どうせいないし」

 相部屋になったクラスメイトは、たぶん帰って来ないつもりだろう。さっき、風呂の用意を取りに戻ったときも姿はなかった。
 遠くの背後から、女子の笑い声が聞こえてくる。おそらく、大浴場から出てきたクラスメイトだ。

「……なんもしてねぇのに、目合っただけで逃げるように出て行きやがった」

 どうやら、相部屋の女子が怖がって他の部屋へ行ってしまったらしい。仲間だったのか、と少しホッとした。
 僕だけが避けられているわけじゃない。そう思う反面、人の不幸に安心するなんて、やっぱり僕は最低なヤツだとも自覚する。

 角のソファーで足を抱えながら座るカザネからは、近寄りがたいオーラは見受けられない。
 たぶん、修学旅行に参加すること自体が異例だっただろうに。彼女は彼女で、歩み寄ろうとしているのかもしれない。

「……深く考えなくても、案外ちょっとしたことで変わるんじゃないか。たとえば……そのマスクを取るとか」
「……無理」
「え……なんで?」
「一回付けたら、外せないんだよ。顔見られんの、恥ずかしいだろ」