こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

「へえ、山田好きな奴いたことないの? まあ、そんなに予想外じゃねぇけど」
「おまえピュアだなぁ〜!」

 強く瞑っていた瞼を開けると、何も変わらないみんなの顔があった。
 あれ。もっと引かれると思っていたのに、普通だ。

「……そっかぁ。じゃあ、好きまでじゃなくても、いいなって思う瞬間ってあったりする?」

 百合園さんにじっと見つめられて、今度は違う意味で胸がドクドクと波打つ。

「た、たとえば……みんなに優しく出来たり。完璧に見えて、ほんとはいろいろ悩んで、頑張ってるのは……いいなぁって思う」
「それ、アタシだな」
「えっ、山田って鬼頭さんが好きなの⁉︎」

 前のめりに食い付く崎田の目が、不安げな色を写している。
 それに、百合園さんがぽかんとした表情で僕を見ていた。これは否定しておかないと。

「あ、あと! 猫の相談に乗って、飛んできた看板から男子守っちゃうくらい強くても、手紙で思い伝えるために練習してたり……それから」

 な、なにを言っているんだ僕は!
 誤解を解こうとすればするほど、勝手に唇が動く。まくし立てる口調は、止まることを知らない。

「そんなヤツおるか? なんか特定の人間っぽい」

 目を細めるカザネから、ふいっと視線を逸らした。だらだらと、首筋に冷や汗が流れてくる。
 そんなこと言われても、なにか話さなきゃと思ったら出ていたんだ。仕方ないだろう。
 隣に目を向けると、百合園さんに顔を背けられた。えっ、なにか気に触ることでもしたかな。
 彼女は視線を逸らしたまま、話し出した。

「……わたしの初恋は、小学1年生のとき。親戚のお姉ちゃんに連れて行ってもらったテーマパークで、会った男の子……かな」