こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

「俺の初恋は、小学5年だったなぁ。同じ班になって、よく話すようになったのがきっかけ」
「想像以上にふつーだなぁ」
「でも、修学旅行の夜に2人で抜け出してさ、ロビーで話してたところを先生に怒られたってエピソードもあるぜ。青春だろ?」
「うん、すっごくいいなぁって思った。そうゆうの、素敵だよね〜」

 僕が小学生の時なんか、ゲームやアニメばかりで色恋なんて知らなかったぞ。まわりもそこまで聞かなかった。
 修学旅行なんて、眠くもないのに速攻で布団へ入ったってのに。くそっ、羨ましい。
 ベッドに腰を下ろしながら、次はカザネがあっと口を開く。

「アタシはダチのアニキかな〜。たぶん、中1とかそんなもん」
「へぇ……、やっぱ、そうゆう系の人だったん?」

 様子を伺いながら、崎田がハンドルを握るジェスチャーをする。

「その人、高校生で族に入ってたよ。バイクの後ろに乗せてもらったんだ。今思い出してもシビれるなぁ」

 懐かしむように、目を細めている。マスクをしているから口元は見えないけど、カザネも楽しそうだ。
 エピソードは大概だが、こうしていると普通の人と変わらない。初めて会った時に比べると、だいぶ丸くなってクラスにも馴染んでいる。
 いつか僕も、変われるんだろうか。

「ねぇねぇ、じゃあ山田くんの初恋は?」

 隣に座る百合園さんが、うつむき加減の僕の顔を覗き込んだ。
 うっ、とうとう番が回って来てしまった。
 小さく息を吸って、ゆっくり吐く。

「実は、まだ……で」

 心臓の音が口から響いている。それくらい音が大きくなって、緊張していた。
 どんな反応されるか。バカにされて笑われるか、少し怖い。