こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 出たッ! チャラチャラした格好の崎田なんたら!

「山田、俺が行ってやるから貸して」

 奪われようとしているファイルを、無言で引っ張った。もう一度崎田の方へ動き、また引くを繰り返す。

「なんだよ、おまえ。離せって」

 ダメだ。人は見た目で判断してはならないと言うけど、今は違う。こんな遊び人を百合園さんの家へ送り込むことはなんとしても避けなければならない。

「……いや、僕が行く。ちゃんと……責任を果たさないと」
「は、何言ってんの?」

 不審な目で見られることには慣れている。
 ここで怯んではいけないと、ひと思いにファイルを天へ掲げた。
 あっ、と崎田が前へよろける。よし、勝ったぞ!

「あ〜、そんなに仲良しなら、2人にお願いすることにしよう」
「……はァ⁉︎」

 声が揃ってしまった。互いに気まずい空気が流れる。
 無理、無理! 崎田と行動を共にするなんて、ゲテモノを食えと言われるより無理だ! いや、それも十分拒絶したいけども。

「おい、それアタシも行くからな」

 素早く振り返るタイミングが、崎田とばっちり合った。ここにもいたぞ。やっかいな人物が。

「……鬼頭(きとう)とか、マジかよ」

 少し引いた感じで、ボソッと崎田がつぶやいた。とんだ貧乏くじを引いたと言いたげに。
 ……カザネって、苗字じゃなかったのか。心の中の僕が、そうぽつりとツッコんでいた。