こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 ーープッ。口元はマスクで隠れているが、眉が下がり目がなくなって、吹き出したことが分かった。

「な、なんで笑う? 笑うところか?」
「だって、どっちかなんてどーでもいいだろ。なのに、お前もアタシも必死になってさ。バカらしくて」

 それほどおかしかったのか、あははと声まで上げている。ずっとおっかない奴だと思っていたけど、こんなふうに笑えるのか。

「ほんとはさ、こうゆう店に1人で来んの、ちょっと嫌だったんだよ。いい思い出ねぇし」

 こっちのセリフだ、と心の中でつぶやく。

「こんな見た目だから、偏見持たれるのは仕方ねぇけど、山田は気の毒だな。普通の格好なのに」

 何を思い出しているのか、またクククと肩を揺らしている。

「なんか喜んでません?」
「気分は悪くねぇよ。しっかり付き合ってくれてるしな。お前、思ったよりいい奴だな」

 バシッと背中を叩かれて、あうっと前へよろけた。
 悪口言われただけなのに、そんなに株上がったのか? やっぱりこの人の思考は理解できない。

「あっ、だからって六花のことはやらねぇからな」
「だ、誰もそんなこと……!」
「とことん邪魔してやるから、覚悟しろよ〜」

 それからなんだかんだで、もう一度さっきの店へ戻って、百合園さんへのプレゼントを選び直した。
 不思議と人の目が気にならなかったのは、あんなものはどうでもいいことだと気付いたから。
 たまには、誰かと出かけるのも悪くはないのかもしれない。