こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 人が賑わう場所は、どうも苦手だ。俯向き加減で歩いていると、隣のカザネも落ち着きなくそわそわしている。

「……とりあえず、ここ入るぞ」

 花柄の物が多く展示されている店舗。客層も若い女の人ばかりだ。
 どちらと言わずも不釣り合いな僕らは、とても浮いている。地獄の始まりだ。

「こんなとこ、入ったことねぇんだよ」
「……僕もだよ」
「六花の好きそうなやつ、どれか選べ」
「ええ、そんな無茶な」

 最近話せるようになったのは事実だけど、好みや趣味なんて話はしたことがない。
 黄色の花が散りばめられたポーチを手に取る。上から下からと見てみるけど、全くワカラナイ。

「ねえ、アレ見て。ちょっと場違い過ぎない?」
「聞こえちゃうって。でも、たしかに」

 ひそひそと笑う声が耳に入った。あきらかに視線がこっちを向いて。
 ほらな。だから来たくなかったんだよ。地味で冴えない男が、こんなザ・女の子の店に入るなんて、注目を集めるに決まってるだろう。
 彼女もいないくせに、何しに来たんだって言う店員の冷ややかな表情。一生胸に刻んでおくからな。

「くそ、誰がどんな店に入ったっていいだろ。用事があるからいるんだよ。お前らだけの場所じゃないんだからな」

 ぶつぶつとつぶやいていると、ぐっと襟首を引っ張られた。
 無言のカザネに、そのまま店舗の外へ出されてソファーにぐだる。

「あ、あのさ……猫じゃないんだから。普通に、してもらえないですかね」
「ああ、悪い。つい癖で」

 シャツの離れた首元を押さえていると、カザネがチッと声を荒げた。

「それにしても腹が立つな。ヤンキーが女っぽい店にいちゃいけねぇのかよ!」
「えっ、アレは僕のことだと思うけど」
「いいや、アタシだ」
「僕だよ」
「うっせぇな! アタシっつってんだろうが」

 寸前まで近付けられた顔面。あまりの迫力にまわりの人が振り返っていく。
 河原で抗争してるんじゃないんだぞ。コイツ、やっぱり普通じゃない。