こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

「……えっ、なんで?」

 いつもと同じ昼の裏庭。猫じゃらしでムタと戯れていた僕は、自分の耳を疑った。
 なぜか、昼食後ここへ通うようになった百合園さん。隣にしゃがみ込んだ彼女が、さっきの言葉を繰り返す。

「山田くん、わたしに告白してくれないかなぁ?」
「それって……どういう……」

 待て待て、落ち着け、僕。
 一度深呼吸して、冷静になってみたら自然と見えてきただろう。
 これはつまり、昨日行われた告白予行練習の逆バージョンだ。それしかない。

「……いいけど」
「じゃあ、今お願いしていい?」
「い、今?! また急だな……」

 いくら練習だとしても、心の準備ってもんがいる。
 逃げようとするムタを抱き抱え、一呼吸置く。
 簡単なことさ。好きだと一言言えばいい。しかも、ただの練習だと彼女も承知の上での告白だ。
 こんな時くらい、男をみせろ!

「あ、あのさ……好き……」
「あぁん? 好きぃ?」

 僕らの間を割くように、見知らぬ人が挟まっている。金髪の長髪に、口元には黒いマスク。

「ーーうぎゃあ!!」

 飛び上がりながら、僕は横へ尻もちをついた。その拍子に、ムタが茂みへ走って行く。
 だ、誰だ……コイツ。いつの間に……男? いや、セーラ服の胸元に膨らみがあるから女子か。

「おい、てめぇどこ見てんだよ」
「ひっ、す、すみませんっ!」

 片側の眉を上げて、ガン付けている。
 ヤンキーだ。人生の中で、絶対に関わりたくない存在ナンバーワン。
 うちの学校にこんなおっかない女子がいるなんて、聞いてないぞ。