こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

「た、たまたま遭遇しただけで。じゃあ、僕はこの辺で……」

 ほんとは応援なんて、これっぽっちもしたくないけど仕方ない。邪魔者は一時退散しよう。
 立ち去ろうとした時、制服の裾がぐっと後ろへ引っ張られた。

「……一緒に、いてよ」

 頬を赤らめながら、僕の背中に隠れる。
 なっ、そんなことを女子に言われたのは生まれて初めてだ。
 たとえ意中の男とふたりきりになる恥ずかしさ故の発言だとしても、響きだけなら悪くない。
 彼女の可愛らしさに負けて、僕はその場にとどまった。典型的なアホだ。自覚はある。

「この前、聞き忘れてたなぁと思って。君、名前なんていうの?」

 視線が百合園さんへ向いている。目が合って、彼女の頬がさらに淡い色へと染まっていく。

「百合園六花です」
「六花ちゃんか。可愛い名前だね」

 ふたりの頭上に、ふわふわしたハートのエフェクトが浮かんでいる。側から見ても美男美女でお似合いだからな。
 こうして僕は、恋のキューピットとして人生の幕を下ろしました。めでたくない、めでたくない。
 ほんとに、それでいいのか?

「そっちの君は?」
「僕……ですか? 山田真人です」

 突然だったので、少し声が裏返った。
 まさか話しかけられるとは思わなかったから。

「素朴で良い名だね! 俺は三年の成瀬琉生。あらためてよろしく」

 握手を求められて、百合園さんが戸惑っている。
 恥ずかしがっているのか、それとも握り潰してしまうのを恐れているのか?
 どちらにせよ。

「よ、よろしくお願いします」

 割り込むように、僕は成瀬琉生の手を掴んだ。隣で驚いた表情をする彼女が目に浮かぶ。
 男の手なんて触りたくもないけど、やむを得ない。
 だって僕は、少年漫画のような彼女のヒーロー(仮)になると決めたのだから。