こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

「あの、す、す、寿司メシ一緒にどうですか!」
「……えっと、それはツッコんだ方がいいの?」
「ボケてるわけじゃないの。口から出る頃には、無意識に変わっちゃうの」

 漫画でよく見るやつだ。すき焼きとか、スのつく言葉でごまかすシーン。
 もうかれこれ5分ほど、今のくだりを繰り返している。

「これじゃあ、想いなんて伝わらないよね」

 しょんぼりとして、抱いた膝に顔を埋めてしまった。
 相当落ち込んでいるらしい。
 まあ、彼女の望む少女漫画のシチュエーションには程遠いだろうからな。

「……無理なら、他の手を考えるしかないんじゃないの。たとえば、あ、遊びに……誘うとか」

 言って後悔する。成瀬琉生と百合園さんがデート? 想像しただけで沼に心臓が落っこちそうだ。

「そっか……すぐに告白じゃなくて、まずは親交を深めてからの方がいいよね!」

 しゃきんと起き上がって、百合園さんが弾むような声を上げる。
 経験もない奴がアドバイスもどきを、しかもとびきり最悪な展開が予想されるものを出してしまった。

 隣で悶えていると、校舎の方からムタの鳴き声が聞こえてきて、人影が現れた。
 ムタを抱きかかえた成瀬永久だった。

「やあ、君たち。こんなところで何してるの?」

 さわやかな笑顔を振りまいて、僕らの前に立つ。
 2人でいて、誤解されたら百合園さんに迷惑がかかる。