こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

「今度こそ、ちゃんと出来てるかな?」
「な、なにが?」
「えーっ、問題だよぉ! これからの時代は英語が重要なんだよね? 頑張って解いたんだけど」

 言いながら、彼女は切なそうにノートを見せる。
 そうだった。今は勉強を教えている最中だろう。僕は何を妄想に更けっているんだ。
 ページが少し焦げているのは、おそらく集中し過ぎたからか。
 しかも……これは筆記体で書いてあるのか? 達筆過ぎて、逆に読めない。

「ごめん、百合園さん。英語は僕より君の方が出来るのかもしれない」
「じゃあ、今度はわたしが教えてあげるね。Happiness depends upon ourselves.はどんな意味でしょう?」
「幸せかどうかは、自分たち次第? たしか、ギリシャ哲学者の名言だったような」
「ピンポーン! なんだぁ知ってたんだねぇ」

 自分の得意分野で優位に立ちたかったのだろう。少しつまらなそうに、百合園さんは唇の先を尖らせた。
 その表情があまりに悔しそうで、思わず頬が緩みそうになる。百合園さんでもそんな顔をするんだ。
 視線を感じて「なに?」と仏頂面へ戻すと、彼女はなんでもないと楽しそうに笑った。