こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

「猫ちゃんの世界にも三角関係ってあるのね」

 ウソだろ? 
 僕の耳には、ただミャーミャーと鳴いてるようにしか聞き取れないけど。ムタ、そんな目に遭ってたのか。
 思い返してみたら、この前元気がなかったような気もする。失恋していたのか。……同志よ。

「……えっ、パパ?」

 なんの前触れもなく振り返るから、隠れそびれてしまった。
 変に身構えた格好で、最高にダサい。
 ああ……穴があったら入りたい。

「山田くん? もしかして、パパって山田くんのこと?」

 百合園さんの言葉に相槌を打つかのように、ムタがミャーと鳴く。
 すると、彼女がそうなんだ〜とまたしても返すから戸惑いを隠せない。

「……えっと、なんの話し? 猫の父親になった覚えはないんだけど」

 ツッコミどころが分からなくて、とりあえず反応してみた。どれが正解の返し方なのか、今だけは陽キャの崎田にでも聞きたいくらいだ。

 ちょいちょいと手招きされて、誘われるままに百合園さんの隣りへ腰をしゃがめる。
 うわっ、触れそうに肩が近い。風が吹いて、シャンプーなのか花のいい香りがしてくる。

「これだよ」

 首をかしげた拍子に、細い髪がふわりと僕の頬をくすぐってきた。思考が鈍りそうになるのを必死に堪えて、目をカッと見開く。
 猫語翻訳アプリ?
 そうか、これを使って話していたのか。さすがの百合園さんでも、機械の仲介なしには無理か。

「ねえねえ、山田くんって、前からこの子と仲良いの?」
「……ま、まあね」
「名前あるのかなぁ?」
「……ムタだよ」
「やっぱり名前付けてるんだ! ムタって、可愛いね〜!」

 しまった。僕がここに入り浸っていることがバレてしまった。おまけに名前まで命名しているなんて、引かれただろうな。