こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

「……また、やっちゃった。先輩、引いてたよね。恥ずかしい」

 隣から、ぐすんと鼻をすする音が聞こえて来る。
 なんでだ? 百合園さんは、ただ僕らを助けてくれただけなのに。

「……な、成瀬先輩!」

 気付いたら、彼を呼び止めていて。

「女子が強いって、いけませんか? 僕は……いいと思います」

 背中に問いかけていた。
 うわ……、僕は何を言っているんだ。

「すごく素敵だよ。賢くて優しい子も好きだけどね」

 百合園さんの方を向いて成瀬先輩が、

「さっきは胸が震えたよ。実にカッコ良かった。今日から君は、俺のライバルだね」

 ウインクを飛ばして帰って行く。前から薄々感じてはいたけど、やっぱりどこかズレている。

「……山田くん」

 そわそわしながら、百合園さんが恥ずかしそうに手で顔を覆った。

「今の、成瀬先輩に引かれてなかったってことだよね?」

 晴れやかな表情に、うっと言葉が詰まる。
 ライバル宣言をされたことに気付いていないのか? それとも、めちゃくちゃポジティブな人なのだろうか。
 ツッコむべきか迷っていると、

「山田くんがあんなふうに思ってくれてたなんて、嬉しいなぁ」

 チラッと視線がガチ合って、思わず空へと逸らした。
 あれは、その場の勢いと言葉の綾というヤツだから。

「……ノ、ノーコメントで」

 クスッと笑う百合園さん。
 まあ、とりあえず一件落着ということで。
 ひとまず胸を撫で下ろして、僕は家路に着いた。