こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 わざわざ、そんなことを知らせなくても良いのに。イケメンのくせに、僕の恥を晒したいのか。
 ……いや、そうじゃない。この人は、僕のために教えたんだろう。でなければ、百合園さんはここまで心配してくれなかった。

 窮地に立たされ、とっさに行動した僕へのささやかなご褒美といったところか。
 さっきの助け方といい、顔も性格もパーフェクトなんて、さすが少女漫画の住人だ。
 ほら、百合園さんの目が、先輩に釘付けになっている。おそらく彼の性格の良さに……ん?

 ぶわっと強風が吹いたと思ったら、向こうから何か飛んで来るのが目に入った。二人とも見つめ合っていて気付いていないのか、動こうとしない。

「あぶ……っ!」

 言いかけた瞬間、バコンという衝撃音が鳴った。思わず屈んで頭を抱えていたけど、今の音は……なにかぶつかったのか?!

 顔を上げて目に飛び込んで来たのは、体半分の大きさはある看板を、百合園さんが左手一本で止めている光景。
 ぐぐぐと力を込める腕と踏ん張る脚に、血管が浮き出ている。少年漫画でよく見るやつだ。

 ふんっと振り上げた腕から離れた看板が、どすんと地面へ突き刺さった。
 ……す、すさまじい。あらためて、なんて腕力なんだ。

「危ないところでしたね」

 サラッと髪を揺らしながら向けられた眼差し。そのイケメンすぎる絵面に、男の僕ですらドキッとしてしまう。
 いけない。危うく新境地を開いてしまうところだった。

「……す、すごいパワーだね。ありがとう……助かったよ」

 それだけ言い残して、成瀬先輩は背を向ける。去りゆく姿は、驚きと動揺が入り混じっているように感じられた。
 あれを目の当たりにしたら、無理もないか。