こちら側の百合園さん【1話からの長編大賞】

 ……しまった! 突っ込まれる!
 あれ、あるはずの背中がない。ふと視線を戻したときには、すでに百合園さんの姿が見えなかった。

 どうなってる?
 まさかとは思ったが、今は確認している余裕はない。早く逃げなければ、でもーー。
 目の前が白い光に包まれていく。周りを天使みたいな生き物が飛んでいるから、僕は死んだのか?

 ああ、違う。ここは、昔家族で行ったファンタジーランドだ。迷子になった僕が、天使の銅像の下で泣いている。両親の言うことを聞いていれば、こんなことにならなかったと後悔していた。

 いわゆる走馬灯というやつだろうか。思い返せば、僕の人生は断崖絶壁ばかりだったな。ここで転生して、異世界のチート魔導士か貴族の猫にでもなるとしよう。

 意識が遠のいて、いよいよと思った矢先のこと。ぶわっと現実世界へ戻された。
 なんだ、なにが起こった?
 体が浮いている。というより、抱き抱えられていると言った方が正確かもしれない。

「……大丈夫?」
「おわぁっ⁉︎」

 ドアップで覗き込んでいるのは、あのイケメンで有名な成瀬琉生だった。
 一応、ギリ170センチある僕の体を軽々と持ち上げて、道路の脇道に立っている。トラックはと言うと、近くの電柱に衝突していた。

「間一髪だったね。あぶない、あぶない」

 あの短時間で、僕を助けただと? この先輩、なんという身体能力なんだ。

「……あ、ありがとうございます。それと、そろそろ下ろしてもらっても……」

 さすがに、16にもなって男にお姫さま抱っこされるのはキツイ。いろんな意味で、危険だ。