次の日の朝、僕はいつも通り目を覚ました。
そうだ、あの後漣に寝かしつけられたんだった。
一緒にベッドで寝るとか言い出すから、すごく意識してしまったわけだけど。
最終的には寝ることができたのか。
といっても、今の時間は6時。
4時間しか寝ていない。
まあ、寝れただけマシか。
そう考えながら、隣にいるであろう漣を見た。
…まだ寝てるし。
「はぁ…、そういえば漣は朝に弱いんだった」
そのことを思い出して、思わずため息をついた。
昨日の夜は、漣のおかげで両親のことを忘れられた。
でも、朝になればまた思い出す。
どうすればいいのだろう。
謝りに行くべき?
でも…僕を理解してくれない人を、親と呼びたくない。
そう考えてると、寝ていたはずの漣の声がはっきり聞こえた。
「なに考えてんの?」
驚いて、勢いよく漣の方を見た。
さっきまで目を閉じていたはずなのに、今はしっかり開いていて僕を見ていた。
「ははっ、驚いてる。かわいーね」
普段は笑わないくせに、いきなり笑顔を見せるんだから心臓に悪い。
ドキッとしちゃったじゃん…。
「べ、別になにもっ…」
「ふーん」
漣は面白くなさそうに僕を見た。
でも、やっぱり深く聞いてこない。
そういうところは、ほんと好きなんだよなぁ。
でも別に、僕は漣を恋愛的な意味で好きなわけじゃない。
僕が体を起こすと、同じように漣も起きた。
それから、僕はハッとした。
しっかり口止めしておかなきゃ。
「漣あのさ、お願いがあるんだ」
「ん?なに?」
「えっと…その…僕が女だってことは、メンバーにもファンの人たちにも秘密にしてほしいんだ」
そう言うと、漣は真剣な顔つきになって沈黙した。
そして数秒後にこう言った。
「それってさ、なんでバレるの嫌なの?」
その質問に、僕は少し震えた。
単純に、怖かった。
漣に——みんなに“僕”を拒絶されるんじゃないかって。
僕にとって、ノヴァは全てなんだ。
だから、拒絶されたら耐えられない。
「僕って…気持ち悪いと思うから。女なのにかっこいいものの方が好きだし、男みたいだし、一人称だって……。だから、みんなに女として見られるのが嫌だった。だから、隠した。Xジェンダーって言って性別は言ってこなかったし、騙してるつもりは…なかったんだけど…」
母さんや父さんの表情が脳裏に浮かぶ。
あんなふうに見られたくない。
そして、漣が僕を不意に抱きしめた。
突然の行動で、抵抗する気も起きない。
「辛ったんだろ。楓乃は気持ち悪くなんてない。どこもおかしくなんてない。なにも悪いことしてないよ。だから、大丈夫」
ぽんぽんと優しく背中をなでてくれた。
——涙があふれた。
受け入れてくれることが嬉しかった。
僕を認めてくれて嬉しかった。
僕は僕でいていいんだ。
最愛の推し、Asahiくんが芸能界から姿を消してから、初めて心の穴が埋まった気がした。
***
「おい漣!!また忘れ物すんなよ!!僕の気持ち考えて!?」
あれから1週間。
両親と揉めて悩んでいたことも忘れ、僕は元の生活に戻っていた。
不安がないと言ったら嘘になるけど。
でも、漣が僕を認めてくれるから。
それだけで十分だ。
「あー、なんか忘れてた?ごめん」
悪びれもしない様子に、僕はムカッとした。
最近僕は漣と一緒にいることが多くて、家に泊まることも多くなってきた。
そう、その頃からずっとなにかしら忘れ物をするのだ。
絶対わざと。
だってこいつ、案外しっかりしてるから。
「またかよ。いい加減にしろよ漣」
僕の様子を見て、紫音も漣を注意する。
でも、当の本人は全く気にせず。
と、その時他のメンバーが入ってきた。
「いや〜外マジあっつ!!部屋ん中天国なんだけど〜」
「ほんとそれ…。日焼けしたくない…」
「あ、俺氷水持ってる。飲む?」
今日の午後は全員での収録だったから灯真や一輝、莉都も集まってくれたのだ。
ちなみに、今日は夏休み最中の真夏日。
まあ、毎年夏はみんなグタグタと文句を言うのだ。
いつものこと。
「あ〜〜生き返った。ありがと莉都。てかさ、最近漣とスイ仲良いよね〜」
「えっ、まあ…」
突然そんなことを言われたから、びっくりして変な返事をしてしまった。
そして、灯真の質問に反応して漣が肩を組んできた。
「まーね。俺ら最近一緒に住んでるし」
「「「「え?」」」」
漣の言葉に、他メンバーがそんな声をもらす。
僕はまずいと思って、漣を止めた。
「嘘つかないで!!ただ、たまに泊まってるだけ!一緒に住んでない!!」
僕の全力否定に、みんなポカンとしている。
そして、漣がくすくすと笑いながら言った。
「たまにって言ったって、ほぼ毎日じゃん」
「うっ…」
たしかにその通りだから、これは否定できない。
「漣とスイがそんなに仲良くなってたなんて、僕知らなかった…」
一輝の言葉に、みんながうんうんと頷いた。
漣が誇らしげに言う。
「いいでしょ」
その言葉がグサッときたのか、灯真が声をあげた。
さらに僕の近くまでさっとよってきて、手を握る。
「スイ〜!!いつも俺らと泊まりイベント断るじゃん!?なのに、なんで漣はいいんだよぉぉ」
なんか半泣き状態。
僕はそんな灯真の頭を、よしよしとなでた。
「ごめんね。今度予定空いたとき行くね」
僕のその一言で、灯真は満足したみたいにパアッと笑顔になった。
「めっちゃ嬉しい!!」
「はいはい。じゃあ、早く収録やるよ〜。みんな準備して」
みんなが準備をしている間、漣から視線を感じた。
僕は気にしないように視線を向けなかったが、それが気に入らなかったのか近寄ってきた。
このときは、さすがに僕も顔をあげた。
「…なに?」
ちょっと不機嫌そうに僕が言うと、漣は少しだけ口角をあげて耳元でささやいた。
「今日も約束、忘れないでね?」
「っ…!!」
僕は思い出してしまって、顔を赤くして距離をとった。
漣は勝ち誇ったような表情で僕を見ていた。
忘れるわけがない。
その“約束”のせいで、漣を意識しまくっているから。
***
「じゃ、今日はここまで!編集は莉都、よろしくね」
「任せて」
3時間くらいで収録が終わり、僕たちは帰るため支度をし始めた。
前回の時よりも吹っ切れた歌声をしている。
これも全部漣のおかげだと思うと、感謝するほかない。
漣の方を見ると、パチッと視線が合って優しく笑った。
「帰ろっか?」
「うん」
僕は素直に頷いた。
そして、メンバーたちに声をかける。
「先に出るね。次もよろしく」
そうして僕と漣はスタジオを出て行った。
「いや〜ほんとあのふたり仲良くなったよな。ちょっと羨ましい」
「灯真だけじゃなくて、みんな思ってるよ?ま、うちのリーダー人気者だからね」
メンバーは漣を羨ましがると共に、ふたりの距離感の近さに少し疑問を持っていた。
***
今日も漣の家に泊まり。
僕はお風呂からあがり、髪の毛を乾かした。
それからソファに座ってスマホをいじる。
SNSチェックは欠かせない。
トレンドをチェックするのと、ファンの子たちの投稿やコメントの確認。
これはいつもやっていること。
トレンドはいつも通り。
次に「のゔぁりす」のいうハッシュタグで検索して、出てきたものをスクロールしていく。
ふと目に入ったのは漣の投稿。
なかなか投稿しないのに…。
写真を見てみれば、僕を後ろから隠し撮りして漣がピースしている。
絶対遊んでんな。
僕は呆れ半分にため息をついた。
コメントも一応見てみる。
僕の指はピタリと止まった。
『実写尊い〜!』
『レンくんの久しぶりの投稿だと思ったら、スイくんもうつってる!』
『このふたり最近距離近くて、めっちゃ好きなケミ』
『スイくんがレンくんにだけ気許してる感じ?』
ファンの子たちにも、そりゃ伝わってるよな。
僕たちの変化に気がつかないはずがない。
漣の距離の近さとか、僕の話し方とか。
すっごくくだけた感じになってるし。
「漣と、距離取らないとな」
「なんで?」
突然後ろから漣の声が聞こえて、急いで離れた。
たしかにそこには、10分ほど前にお風呂に入ったはずの漣がいた。
お風呂上がりだから色っぽい……じゃなくて!
「ちょっ…!!服はだけてるって!ちゃんて着て!!」
僕は漣から視線をずらした。
漣を見てるだけで、心臓がドキドキなってうるさい。
そんな僕を見て、楽しそうに近づいてきた。
「へぇ〜、そんなんで顔赤くするんだ。前まではメンバーとかが上裸でも、そんなふうにならなかったのにね?」
それから、耳元で言った。
「意識しちゃうんだ」
「っ…」
僕は漣を突き放そうとしたが、両手を繋がれてしまって無理だった。
抵抗できない。
僕はただただ視線を合わせないようにするしかなかった。
「ま、いいや。で?なんで俺と離れるの?」
漣は距離をとってくれて、服もしっかり着てくれた。
僕は一度深呼吸して、言った。
「ファンの子たちとかメンバーだって気づいてるよ、僕たちの距離感が変わったって」
「うん、知ってるよ?でもそれがなに?」
「いや、だから。変に思われるじゃん。漣だって、もしかしたら僕に気があるんじゃないかって言われるかもよ?」
漣は途端に真顔になった。
まるで人が変わったかのような表情の変えように、僕はゾクッとした。
「だからなに?事実だからいいじゃん。俺には楓乃がいればいい」
僕はなにも言えなかった。
漣はきっと本気でそう思ってる。
漣の孤独を知ってるから、僕は強く突き放せないんだ。
でも、もし僕と漣が付き合ってるなんて言われちゃったら?
そうしたらきっと待っているのは炎上。
グループ内恋愛なんて、ファンにとってはきっと望んでない姿だから。
「ね、楓乃。今日も約束」
「えっ、あ…」
突然調子を取り戻した漣が、僕を押し倒した。
約束。
それは、漣の相手をすれば女だってことを守ってくれる約束。
僕は従うしかないから。
でも、今日だけはなんだか違った。
いつもはすぐ触れてくるはずなのに、ただじっと見つめてくるだけ。
「ね、抱きしめていい?」
「っ…、い、いつもそんなこと聞かないじゃん…」
僕の言葉には返事をせず、ギュッと僕を抱きしめた。
まるで壊れ物を扱うみたいに、優しかった。
その体温が今までの何倍も暖かかった。
「楓乃ちゃん。はやく俺に惚れてって」
好きになるわけない。
意識もしてない。
——そんなの嘘だ。
漣の声は、とても弱々しくて胸がキュッとなった。
僕だけが漣の孤独を知っている。
だから突き放せないのか。
——もしかしたら、もう僕は少しだけ漣を好きになってしまったからなのかもしれない。
そうだ、あの後漣に寝かしつけられたんだった。
一緒にベッドで寝るとか言い出すから、すごく意識してしまったわけだけど。
最終的には寝ることができたのか。
といっても、今の時間は6時。
4時間しか寝ていない。
まあ、寝れただけマシか。
そう考えながら、隣にいるであろう漣を見た。
…まだ寝てるし。
「はぁ…、そういえば漣は朝に弱いんだった」
そのことを思い出して、思わずため息をついた。
昨日の夜は、漣のおかげで両親のことを忘れられた。
でも、朝になればまた思い出す。
どうすればいいのだろう。
謝りに行くべき?
でも…僕を理解してくれない人を、親と呼びたくない。
そう考えてると、寝ていたはずの漣の声がはっきり聞こえた。
「なに考えてんの?」
驚いて、勢いよく漣の方を見た。
さっきまで目を閉じていたはずなのに、今はしっかり開いていて僕を見ていた。
「ははっ、驚いてる。かわいーね」
普段は笑わないくせに、いきなり笑顔を見せるんだから心臓に悪い。
ドキッとしちゃったじゃん…。
「べ、別になにもっ…」
「ふーん」
漣は面白くなさそうに僕を見た。
でも、やっぱり深く聞いてこない。
そういうところは、ほんと好きなんだよなぁ。
でも別に、僕は漣を恋愛的な意味で好きなわけじゃない。
僕が体を起こすと、同じように漣も起きた。
それから、僕はハッとした。
しっかり口止めしておかなきゃ。
「漣あのさ、お願いがあるんだ」
「ん?なに?」
「えっと…その…僕が女だってことは、メンバーにもファンの人たちにも秘密にしてほしいんだ」
そう言うと、漣は真剣な顔つきになって沈黙した。
そして数秒後にこう言った。
「それってさ、なんでバレるの嫌なの?」
その質問に、僕は少し震えた。
単純に、怖かった。
漣に——みんなに“僕”を拒絶されるんじゃないかって。
僕にとって、ノヴァは全てなんだ。
だから、拒絶されたら耐えられない。
「僕って…気持ち悪いと思うから。女なのにかっこいいものの方が好きだし、男みたいだし、一人称だって……。だから、みんなに女として見られるのが嫌だった。だから、隠した。Xジェンダーって言って性別は言ってこなかったし、騙してるつもりは…なかったんだけど…」
母さんや父さんの表情が脳裏に浮かぶ。
あんなふうに見られたくない。
そして、漣が僕を不意に抱きしめた。
突然の行動で、抵抗する気も起きない。
「辛ったんだろ。楓乃は気持ち悪くなんてない。どこもおかしくなんてない。なにも悪いことしてないよ。だから、大丈夫」
ぽんぽんと優しく背中をなでてくれた。
——涙があふれた。
受け入れてくれることが嬉しかった。
僕を認めてくれて嬉しかった。
僕は僕でいていいんだ。
最愛の推し、Asahiくんが芸能界から姿を消してから、初めて心の穴が埋まった気がした。
***
「おい漣!!また忘れ物すんなよ!!僕の気持ち考えて!?」
あれから1週間。
両親と揉めて悩んでいたことも忘れ、僕は元の生活に戻っていた。
不安がないと言ったら嘘になるけど。
でも、漣が僕を認めてくれるから。
それだけで十分だ。
「あー、なんか忘れてた?ごめん」
悪びれもしない様子に、僕はムカッとした。
最近僕は漣と一緒にいることが多くて、家に泊まることも多くなってきた。
そう、その頃からずっとなにかしら忘れ物をするのだ。
絶対わざと。
だってこいつ、案外しっかりしてるから。
「またかよ。いい加減にしろよ漣」
僕の様子を見て、紫音も漣を注意する。
でも、当の本人は全く気にせず。
と、その時他のメンバーが入ってきた。
「いや〜外マジあっつ!!部屋ん中天国なんだけど〜」
「ほんとそれ…。日焼けしたくない…」
「あ、俺氷水持ってる。飲む?」
今日の午後は全員での収録だったから灯真や一輝、莉都も集まってくれたのだ。
ちなみに、今日は夏休み最中の真夏日。
まあ、毎年夏はみんなグタグタと文句を言うのだ。
いつものこと。
「あ〜〜生き返った。ありがと莉都。てかさ、最近漣とスイ仲良いよね〜」
「えっ、まあ…」
突然そんなことを言われたから、びっくりして変な返事をしてしまった。
そして、灯真の質問に反応して漣が肩を組んできた。
「まーね。俺ら最近一緒に住んでるし」
「「「「え?」」」」
漣の言葉に、他メンバーがそんな声をもらす。
僕はまずいと思って、漣を止めた。
「嘘つかないで!!ただ、たまに泊まってるだけ!一緒に住んでない!!」
僕の全力否定に、みんなポカンとしている。
そして、漣がくすくすと笑いながら言った。
「たまにって言ったって、ほぼ毎日じゃん」
「うっ…」
たしかにその通りだから、これは否定できない。
「漣とスイがそんなに仲良くなってたなんて、僕知らなかった…」
一輝の言葉に、みんながうんうんと頷いた。
漣が誇らしげに言う。
「いいでしょ」
その言葉がグサッときたのか、灯真が声をあげた。
さらに僕の近くまでさっとよってきて、手を握る。
「スイ〜!!いつも俺らと泊まりイベント断るじゃん!?なのに、なんで漣はいいんだよぉぉ」
なんか半泣き状態。
僕はそんな灯真の頭を、よしよしとなでた。
「ごめんね。今度予定空いたとき行くね」
僕のその一言で、灯真は満足したみたいにパアッと笑顔になった。
「めっちゃ嬉しい!!」
「はいはい。じゃあ、早く収録やるよ〜。みんな準備して」
みんなが準備をしている間、漣から視線を感じた。
僕は気にしないように視線を向けなかったが、それが気に入らなかったのか近寄ってきた。
このときは、さすがに僕も顔をあげた。
「…なに?」
ちょっと不機嫌そうに僕が言うと、漣は少しだけ口角をあげて耳元でささやいた。
「今日も約束、忘れないでね?」
「っ…!!」
僕は思い出してしまって、顔を赤くして距離をとった。
漣は勝ち誇ったような表情で僕を見ていた。
忘れるわけがない。
その“約束”のせいで、漣を意識しまくっているから。
***
「じゃ、今日はここまで!編集は莉都、よろしくね」
「任せて」
3時間くらいで収録が終わり、僕たちは帰るため支度をし始めた。
前回の時よりも吹っ切れた歌声をしている。
これも全部漣のおかげだと思うと、感謝するほかない。
漣の方を見ると、パチッと視線が合って優しく笑った。
「帰ろっか?」
「うん」
僕は素直に頷いた。
そして、メンバーたちに声をかける。
「先に出るね。次もよろしく」
そうして僕と漣はスタジオを出て行った。
「いや〜ほんとあのふたり仲良くなったよな。ちょっと羨ましい」
「灯真だけじゃなくて、みんな思ってるよ?ま、うちのリーダー人気者だからね」
メンバーは漣を羨ましがると共に、ふたりの距離感の近さに少し疑問を持っていた。
***
今日も漣の家に泊まり。
僕はお風呂からあがり、髪の毛を乾かした。
それからソファに座ってスマホをいじる。
SNSチェックは欠かせない。
トレンドをチェックするのと、ファンの子たちの投稿やコメントの確認。
これはいつもやっていること。
トレンドはいつも通り。
次に「のゔぁりす」のいうハッシュタグで検索して、出てきたものをスクロールしていく。
ふと目に入ったのは漣の投稿。
なかなか投稿しないのに…。
写真を見てみれば、僕を後ろから隠し撮りして漣がピースしている。
絶対遊んでんな。
僕は呆れ半分にため息をついた。
コメントも一応見てみる。
僕の指はピタリと止まった。
『実写尊い〜!』
『レンくんの久しぶりの投稿だと思ったら、スイくんもうつってる!』
『このふたり最近距離近くて、めっちゃ好きなケミ』
『スイくんがレンくんにだけ気許してる感じ?』
ファンの子たちにも、そりゃ伝わってるよな。
僕たちの変化に気がつかないはずがない。
漣の距離の近さとか、僕の話し方とか。
すっごくくだけた感じになってるし。
「漣と、距離取らないとな」
「なんで?」
突然後ろから漣の声が聞こえて、急いで離れた。
たしかにそこには、10分ほど前にお風呂に入ったはずの漣がいた。
お風呂上がりだから色っぽい……じゃなくて!
「ちょっ…!!服はだけてるって!ちゃんて着て!!」
僕は漣から視線をずらした。
漣を見てるだけで、心臓がドキドキなってうるさい。
そんな僕を見て、楽しそうに近づいてきた。
「へぇ〜、そんなんで顔赤くするんだ。前まではメンバーとかが上裸でも、そんなふうにならなかったのにね?」
それから、耳元で言った。
「意識しちゃうんだ」
「っ…」
僕は漣を突き放そうとしたが、両手を繋がれてしまって無理だった。
抵抗できない。
僕はただただ視線を合わせないようにするしかなかった。
「ま、いいや。で?なんで俺と離れるの?」
漣は距離をとってくれて、服もしっかり着てくれた。
僕は一度深呼吸して、言った。
「ファンの子たちとかメンバーだって気づいてるよ、僕たちの距離感が変わったって」
「うん、知ってるよ?でもそれがなに?」
「いや、だから。変に思われるじゃん。漣だって、もしかしたら僕に気があるんじゃないかって言われるかもよ?」
漣は途端に真顔になった。
まるで人が変わったかのような表情の変えように、僕はゾクッとした。
「だからなに?事実だからいいじゃん。俺には楓乃がいればいい」
僕はなにも言えなかった。
漣はきっと本気でそう思ってる。
漣の孤独を知ってるから、僕は強く突き放せないんだ。
でも、もし僕と漣が付き合ってるなんて言われちゃったら?
そうしたらきっと待っているのは炎上。
グループ内恋愛なんて、ファンにとってはきっと望んでない姿だから。
「ね、楓乃。今日も約束」
「えっ、あ…」
突然調子を取り戻した漣が、僕を押し倒した。
約束。
それは、漣の相手をすれば女だってことを守ってくれる約束。
僕は従うしかないから。
でも、今日だけはなんだか違った。
いつもはすぐ触れてくるはずなのに、ただじっと見つめてくるだけ。
「ね、抱きしめていい?」
「っ…、い、いつもそんなこと聞かないじゃん…」
僕の言葉には返事をせず、ギュッと僕を抱きしめた。
まるで壊れ物を扱うみたいに、優しかった。
その体温が今までの何倍も暖かかった。
「楓乃ちゃん。はやく俺に惚れてって」
好きになるわけない。
意識もしてない。
——そんなの嘘だ。
漣の声は、とても弱々しくて胸がキュッとなった。
僕だけが漣の孤独を知っている。
だから突き放せないのか。
——もしかしたら、もう僕は少しだけ漣を好きになってしまったからなのかもしれない。



