『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

『いいえ、大丈夫よ……親切に、ありがとう』

 眩暈は一瞬で収まったようで、女性は脱力したように息を吐く。小さく微笑まれて紗月は目を瞬かせた。

(わぁ、すごく綺麗な人だな)

 年齢は母と変わらないか少し若いくらいだろうか。化粧はしておらず、少しやつれて見えるのに顔立ちは驚くほどはっきりとしていて、たおやかな美しさがあった。

『ご迷惑掛けてごめんなさいね……あら、その制服』

 女性は紗月を見て、なにかに気づいた表情になる。

『母さん』

 前方から声がしてそちらへ視線を向けると、見知った人物が立っていた。

『え、島君?』

『あら航生、早かったのね』

『なにやってるんだよ。薬の副作用があるんだから、勝手に歩き回らないように言われてただろう』

 すぐ近づいてきた航生は、紗月に気づくと『永井?』と戸惑った声を漏らした。

『ごめんなさい。歩けるうちに少しでも体を動かしたくて。それより航生、この子あなたと同じ学校よね』

『……同級生』

 母に問われ、航生は少しバツが悪そうに紗月から顔を逸らしたが、長い前髪とぶ厚い眼鏡でその表情はっきりとはわからない。