『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

 紗月が笑いかけると、乃愛はあからさまに肩を竦めた。

 バスケ部の練習中、足首を剥離骨折した乃愛。手術は必要ないものの、十日程度の入院が必要と言われていた。最後の大会に向けて頑張ってきたのに、と落ち込んでいた乃愛だが、持ち前の明るさですぐに立ち直っていた。

『安静にしてなさいって言われているんだから、勉強するにはちょうどいいでしょ。ほら、教科書持ってきたから』

『えー、現実見たくないのに、厳しいなぁ……でもありがとう!』

 ぶつぶつ言いながらもちゃんとお礼を言うのが乃愛のかわいいところだった。

 見舞いを終え、エントランスに向かって病棟の廊下を歩いていると、病衣を着た女性がこちらに向かって歩いてきた。

 すれ違いそうになったとき、ふいにその女性がふらつき壁にもたれかかる。

『大丈夫ですか!』

 驚いた紗月は咄嗟に駆け寄る。

『ちょっと眩暈がして……』

『そこに椅子があるので……掴まれますか?』

 紗月は彼女の体を支えながらすぐ近くにある長椅子に誘導し、座らせる。

『看護師さんを呼んできましょうか』

 寄り添うように腰を下ろし周囲を見渡すが、運悪く病院関係者の姿はない。