『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました

「今からでもいい。無理なら、言って」

 低く、確かめるような声のあと、ふたりの間に沈黙が落ちる。

 彼は、引き返せるように道を開けてくれているのだろう。

 紗月は軽く唇を噛み、視線を逸らした。胸の奥がざわつく。怖さもある。でも、ここから離れたいとは思えなかった。

「無理じゃない……」

 絞り出すような声が零れた瞬間、腰に彼の腕が回った。ぐっと引き寄せられる感覚に、心臓が大きく跳ねた。抗う間もなく、紗月はそのままベッドへと導かれていく。

「あ……」

「……ごめん」

 囁くような声とともに、身体が倒れた。柔らかなマットレスが背中を受け止め、視界が天井を映し出したと思うと大きな体が覆いかぶさっていた。

「もう、止められない」

 どこか葛藤を滲ませた声色に紗月の胸は切なくなる。

「いいよ……でも、ごめん。お察しだと思うけど、私こういうの、あの、初めてだから……」

 あまりの恥ずかしさで語尾がすぼんだ紗月の意図を察したのか、彼はゆったりと目を細めた。

「ああ、優しくする」

 そう言うと、彼は手を伸ばして枕元の照明を操作し、サイドランプの柔らかな明かりだけを残した。