「じゃあ、僕から提案なんですけど。お昼2人で食べませんか?」
「…2人で?」
「2人は嫌ですか?友達連れて、4人とかでも大丈夫ですよ」
「あ、いや。2人で、お願いします」
「うん、決まりね」
鼻歌でも歌い出しそうな、にこやかな表情で、視線を私から目の前の人混みに移す。私はそんな新さんの表情と視線から目を離せないでいた。
2人でお昼ご飯を食べるの、そんなに嬉しく思ってくれるの?私ももちろん、嬉しい。出会ったばかりで、2人でご飯まで進めるのも、初めてだし。でも新さんとここで会うのも、最初で最後かもしれないのは寂しい。
同じビルのエントランスを抜け、同じエレベーターに乗り、私はボタンの前に立って10階のボタンを押す。
「新さん、何階ですか?」
「俺、11階」
聞いてボタンを押すつもりだったのに、目の前に手が伸びてきて、11のボタンを押された。新さんの手が引いた時、ふわっとムスクのような香りが鼻を掠めて、惹きつけられる。
しかも、エレベーター内はぎゅうぎゅう詰めなのに、新さんが斜め後ろで私が押し潰されないように立ってくれていて、それもまた紳士だなと思わされた。何より、立ち方がほぼ壁ドンなのに、圧がなくスタイリッシュに見える。私の心臓はうるさくて、耳も熱いけど。



