「多分、旧姓を名乗っていたんじゃないかな? オレもその女優さんが誰かは知らないんだけどね」
「へえ。もしかして芥生先輩も、色々と複雑な家庭環境だったりしたんかな?」
「どうだろう……まあそれは、いつか芥生先輩が話したいと思ってくれるまで、待っていようよ。僕たちの方から変に詮索しない方がいいだろうし」
「ん、そうだな」
こうして、何とか衣装合わせが終わった。
翌日には、衣装を着たまま実際に舞台上で芝居を通しておこなうことになった。
しかし――ここで駄々をこねたのが、謙杜だ。
「ひ、ひぃ! や、やっぱりぼくが舞台に立つとか、無理なんだよお……!」
「今更何言ってるんすか。ほら、もうすぐで先生も来ますし、準備しますよ!」
「あ、浅羽殿、やめてくださいでござる~! 陰キャで引きこもりオタクのぼくが人前で演じるなんて、やっぱりハードルが高いんだよお……!」
琥太郎が話を通してくれていたようで、教師の一人が実際に優希たちの芝居を観て、アドバイスをくれることになったのだ。
しかし先生という観客が入ることが分かると、謙杜の態度は急変した。
塁生が手を引いているが、謙杜は舞台下でうずくまり、いやいやと首を横に振っている。



