読み合わせが終わり、次の段階である立ち稽古に入った。
立ち稽古とは、実際に動きや表情などを加えておこなう稽古のことだ。
水曜日の午後。
琥太郎が申請してくれていた稽古場Fの舞台に一番に来ていた優希は、舞台の上に立ち、台本を片手に持ちながら、一人で立ち稽古を始めていた。
「全く、父さんは頭が固いんだ。好きな人は、僕が自分で決めるさ」
「僕は、隣の国のフィリップ王子です。あなたのお名前を聞いてもいいですか?」
「待って! お嬢さん、待ってください。……ねぇ、今度はいつ会える?」
王子役である優希は、登場シーンも多い。
特に気になる場面をいくつか声に出して読んでみて、一息ついていれば、パチパチと小さな拍手の音が聞こえてきた。
優希が視線を落とせば、琥太郎と謙杜が舞台下に立っている。
優希は集中していて気づかなかったが、五分以上前には来ていて、優希の立ち稽古を見守っていたのだ。



