「そもそも、浅羽は台詞に気持ちが全くこもっていない。読み合わせだからって、手を抜いているのが見え見えなんだよ」
「はあ? 別に稽古なんだし、ちょっとくらい気楽にやったっていいっしょ。ずっと肩肘張ってたって、疲れるだけじゃん」
「……もういい。お前と言い合っている方が時間の無駄だからな」
「はあ? 先に空気を悪くしてきたのはお前だけど?」
「もう時間だし、今日はここまでにしよう。俺は用があるから、先に帰る」
時計を見れば、あと五分で舞台の使用が終わる時間となっていた。
早々に自分のリュックを背負った雄星は、まだ言い足りなさそうな塁生を無視して、一人で先に帰ってしまった。
「ったく、何だよアイツ! 一人でイライラしちゃってさ」
塁生は不機嫌そうな顔をして、雄星が出ていった扉の方を睨むように見つめている。
「こ、怖かった……そ、そういえば八乙女くんってさ、八乙女晃成に顔が似てる気がしない?」
「はい。雄星くんのお父さんは、八乙女晃成さんらしいですよ」
「え、マ!? そうだったんだ……」
「って、芥生くんは知らなかったの!?」
雄星の迫力にビビって黙り込んでいた謙杜は、雄星の父親が、あの“八乙女晃成”であることに、ようやく気づいたようだ。
優希に事実を教えてもらって驚いている。
そして謙杜が知らなかったということに、琥太郎もまた驚いている。



