
ある日の昼休み直前。エレベーターに向かった莉央は、角を曲がった先で慧とばったり会う。
「……あっ」
「……よかった。会えた」
慧は穏やかに微笑み、エレベーターホールの壁際へ莉央を促す。
ランチタイム直前、廊下は混み合い始めていて、ふたりの距離は自然と近くなる。
「あの、誰かに見られたら……」
「大丈夫。すぐ混むし、こっちの死角、気づかれにくいから」
そう言って、慧は莉央の手を……そっと、でもしっかりと、握った。
「……っ、ここで……?」
「ん、ダメ?」
声は低く甘く、耳元に落ちるささやき。
莉央の手を握ったまま、慧の親指がそっと手の甲をなぞる。
さらに指を絡めてきて、その指先同士をゆっくり撫でてくる。
(触り方……ずるい)
手を繋ぐより、ずっと恥ずかしい。
なのに、逃げられない。
「莉央……かわいい顔してる」
「えっ、見てたんですか……?」
「うん、反応見て楽しんでる」
くすっと笑う慧は、完全にいつもの余裕のある態度。
一方、莉央は赤くなるばかりで、冷静でいられない。
「……ちょ、ずるい、です……」
「俺ね。莉央とこうしてるだけで、めちゃくちゃ癒されるんだよ。こっちの方がずるいでしょ?」
「……っ!」
エレベーターが開く直前、慧は絡めた指をほどいて、莉央の手の甲にそっとキスを落とした。
「じゃ、いってらっしゃい。午後もがんばって」
誰にも気づかれない、ふたりだけの時間。
でも、指先がまだ熱くて、胸の奥がくすぐったい。
莉央は小さくうなずきながら、心の中で呟いた。
(午後どころか……今日ずっと頑張れる気がする……)
To be continued

