原始の湖畔、サファイアの瞳

 すり寄ってくる彼女の細い首を、そして柔らかな羽を、折れんばかりの力で抱きしめていた。

 腕の中に伝わる、驚くほど熱い命の鼓動。
 指先に触れる羽の感触が、少年の頑なな心を溶かしていく。

(ああ、もう……嫌だ。こんな苦しみは、二度と味わいたくない)

 別れの寂しさに震えるくらいなら、このまま彼女を離したくない。
 泥だらけの自分を、彼女の一部にしてしまいたい。
 
 少年は、彼女の温もりに顔を埋め、魂の底から願った。

(俺を連れて行ってくれ。お前と同じ場所へ。お前と同じ……空へ)

 空は突然暗くなり、太陽の光を遮るように月が重なる。
 女神の化身とも言える月が、少年の決意を促すように冷たく、けれど慈悲深い光を放った。

「後悔はないのかい?……もう、二度と人間には戻れないよ」

(ああ、後悔なんてあるものか。これこそが、僕が求める答えだ)

 少年はゆっくりと立ち上がり、天を仰いで両腕を広げた。
 次の瞬間、泥にまみれた指先から、眩いほどの純白が溢れ出す。

 重い石槍を握っていたその手は、風を孕む大きな翼へと姿を変えていった。
 
 それを見つめる『白』の瞳には、愛しさと、彼をこちら側の運命に引き込んでしまったことへの悲痛な光が揺れていた。
 
 彼は再び、彼女の瞳を見つめた。